ダモダラン教授は、わかりやすい極端な例を挙げて、これを解説する。
「トルコのプロジェクトや企業の株式コストをトルコリラ建てで推計する場合、20%超のリスクフリー金利から始めて、そこに株式リスク・プレミアムを加算する。
しかし、同じプロジェクトや企業の株式コストをユーロ建てで推計する場合は、3%近辺(ドイツのユーロ建て国債金利)から始めて、もっと低い数字になる。
突飛に聞こえるだろうが、一貫して同通貨でキャッシュフローを予想する限り、いずれの通貨で求めたプロジェクトまたは企業の価値も同じになるはずだ。」
リラ建てでDCFをやる場合、割引率はかなり高いが、同時に名目の将来CFも高インフレに応じて急速に上昇すると予想される。
ユーロ建ての場合、割引率はかなり低いが、名目の将来CFの上昇率も低くなる。
ここで、為替換算すれば、急速に上昇するリラ建ての名目CFと、低成長のユーロ建て名目CFは同じになる。
高インフレのリラが年々対ユーロで弱くなっていくためだ。
これは、理論上は正しい考え方だし、理論的にDCFを詰めていけば、同じ結果になるはずだ。
しかし、実務家が実際に直面する問題はそう単純ではない。
実際に、新興国市場向けの事業投資において、この問題は重大な実務上の問題になる。
そして今や、この問題は日本人にあまねく降りかかる可能性が高まっている。
例えば、日本国内で発生するCFについてDCFを行う場合を考えよう。
これを豪ドル建てと円建てで行う。
両方とも先進国であるため割引率は大きくは変わらない。
ならば、将来CFの成長率も豪ドル建てと円建てで同程度でないと困る。
(同程度でないと、結果が一致しなくなる。)
しかし、将来の豪ドル/円相場について、読者は(現在の金利パリティで)安定的とみなせるだろうか?
この問題について、ダモダラン教授は直接の答えを明記していない。
しかし、1つ考えるヒントを残している。
それは、通貨ペッグ(固定相場、管理フロート)がなされている国のケースだ。
「通貨ペッグが存在する場合、それが成り立つのは、ペッグされた通貨のインフレがペッグの対象となる通貨のインフレに近い場合のみだ。」
裏を返せば、インフレに差がある場合、現状何らかの理由でフォワード為替レートが安定的であったとしても、その為替レートを使ってはいけないかもしれないということだろう。
思えば、この心配は、自国通貨建て債務はデフォルトしないとの仮定から始まっている。
財政悪化が深刻化しても政府がデフォルトを選択しないと予想される場合、代わりに通貨が下落していくと予想されるためだ。
もちろん、円だけの世界に住むのなら、この議論は無意味だ。
円の将来CFを円の割引率で割引き、円建ての現在価値を求めればよい。
将来のインフレ昂進を心配するなら、その現在価値に対して将来の予想インフレの懸念を考慮すればよい。
ところが、ひとたびグローバル投資の世界に足を踏み込むと、この問題は無視できなくなってくる可能性がある。
現時点で見積もる円のCF、外貨のCFの意味合いが大きく変化する可能性があるのである。
