ジェレミー・シーゲル教授は、依然として米経済・市場に対し強気だ。
ただし、同時にさかんに原油価格を気にしている。
「私の意見では、多くのことが原油によっている。
そして、原油は上げ下げしつつも、みんなが思っていたよりもはるかに低い水準にとどまっている。」
シーゲル教授の最近の話では、頻繁に強気と弱気が交錯する。
この日もそうだった。
「各国の石油備蓄は減っている。
仮に原油が100ドルを超え、ガソリン価格が再び4.50-5.00ドル水準まで上昇すれば、本当に不況が始まり、すべての予想を覆してしまう。
・・・
仮に原油の流通経路が見直され原油が70ドルまで下がるなら、市場は大きく上昇するだろう。」
婉曲な「景気後退」(recession)でなく、最近あまり聞かなくなった「不況」(depression)という言葉を用いたことに意図はあったのだろうか。
シーゲル教授は、米市場について強気スタンスを変えていない。
7月23-29日が「この4年半でグロースがバリューとの比較で最悪」の5営業日になったこと、その後グロースが持ち直していることを紹介している。
「株式市場で起こっていることはとても健全なことだ。
半導体チップ株から泡が抜けた。
この泡こそが、話してきたとおり、唯一のバブルの要素だった。
・・・
ローテーションは継続するだろうが、これまでのようなスピードではなくなるだろう。
そして、とても多くのことが、原油が合理的価格にとどまるか劇的に上昇するかによることになろう。」
シーゲル教授はこのように原油価格の動向を重要視している。
原油価格が今後のインフレを左右するためだ。
教授はKnowledge at Whartonで「これは主に政治的な問題になる」と語っている。
原油価格が落ち着けばインフレ圧力が減り、利上げの意見が減り、利下げも視野に入って来るかもしれない。
上昇したり高止まりすればインフレ圧力が続き、利上げを求める声が大きくなろう。
シーゲル教授は米経済・市場に対し引き続き強気だ。
しかし、その話し方には常に懸念と警戒がともなっている。
いったい何が変わったのだろう。
イラン紛争や原油価格だろうか。
いや、これらが不透明なのは前から変わっていない。
米イランの停戦合意が本質的な前進でないことは世界中の人が気づいていたはずだ。
では、紅海が封鎖される可能性が出てきたことか。
これは要因の1つになりそうだが、一方でシーゲル教授は、米社会の石油依存が以前より低下していると何度も主張してきた。
では、関税だろうか。
いや、トランプ政権が再び抜け道を使って関税を復活させることも多くの人が予想してきたことだ。
FRBの新議長だろうか。
しかし、シーゲル教授はウォーシュ議長を高く評価してきたし、マネタリストという点で共感を示すことも多かった。
ウォーシュFRBの先行きについて不確実な点があるとしても、ここまで警戒感を高めることだろうか。
結局のところ、シーゲル教授が警戒を強めている最大の要因はマネーサプライなのではないか。
Knowledge at Whartonでも教授は利上げを主張している。
「マネーサプライ、預金、M2を見ると、間違いなくFRB目標と整合するより速いペースで伸びている。
イラン紛争開始後、M2と預金は年率8-9%とかなり速い伸びだ。・・・
これを減速させる唯一の方法は利上げだ。」
米国では《強気相場はFRBが殺す》という言葉、経験則がある。
マネタリズムの考えに基づけば、速すぎるマネーサプライの増加は物価上昇を生む。
結果、FRBに金融引き締めを強いることとなり、そうすることで景気と市場が悪化に転じてしまう。
変心とも見えるシーゲル教授の警戒ぶりは、こうした連想に基づくものなのだろう。
足もとのマネーサプライが高い伸びを示していることは、投資家にとって刹那的には朗報になる。
マネーサプライが急増すると、財・サービスより金融資産において大きな価格上昇を引き起こすことが多いためだ。
しかし、仮にその後FRBに殺されてしまうのなら、こうした高い伸びは相場をジェットコースターに変えるだけになってしまう。
どこで機敏に降りるか、つまりマーケット・タイミングを試みるか、上げも下げも最後まで付き合うか、つまりバイ&ホールドを貫徹するか、投資家は決断を迫られつつあるのかもしれない。
