アスワス・ダモダラン ニューヨーク大学教授は、業務効率化ツールとしてのAI普及について課題を指摘している。
「史上最も高価な工場が出来上がっている。
すでに2.5兆ドルもが工場に投じられたが、恐ろしいことに私たちはそこで何が作られるのか、作られるものを人々が買うのか、いくら払ってくれるのかわかっていない。」
ダモダラン教授がKushal Lodha氏によるインタビューで、AI設備投資の投資回収について懸念を語った。
コストを気にせず建設されてきたAIデータセンターについて、教授はその収益性を強く疑っている。
「ツールとしては(AIは)高くつく。
なぜなら企業がそれを負担し、既存の費用に加えてこれが発生することになるからだ。」
仮にAIが「ツール」として経済的恩恵をもたらすものにとどまるなら、高コストで建設された「工場」では採算が取れないだろうとの見方だ。
人件費削減の「ツール」ならば、その売上の上限は顧客が払っている人件費の合計にしかならない。
ダモダラン教授は、昨年全世界で従業員に支払われた賃金・報酬が合計26兆ドルと紹介している。
「ツール」としてのAIにとって売上となりうるのはその一部にすぎず、利益はさらにその一部にしかならない。
教授は以前から、莫大な設備投資の回収について懸念を示してきた。
ダモダラン教授は、AIがコスト高であるとする1つの根拠として、AIプロバイダーの事業モデルのシフトを挙げた。
「ChatGPTのサービスが始まった時、収益化の基本的な事業モデルはサブスクリプションだった。
AIはどんどん定額制から従量制のモデルにシフトしてきた。」
ダモダラン教授は、定額のサブスクリプションを提供しユーザがたくさん使えばAIプロバイダーが破産しかねないエコノミクスになっていると推測する。
だからこそ、事業モデルを従量制にシフトさせてきたのだ。
ダモダラン教授は、この分野で勝者と敗者を分けるポイントを端的に予想する。
- マス市場: コスト競争力
- プレミアム市場: AIエージェントの性能、信頼
マス市場で投資回収を図るのは相当に難しいだろう。
そうなると、企業向けのプレミアム市場が重要になってくる。
ダモダラン教授は、とりわけAIプロバイダーの「信頼」について重く見ている。
「一度導入したら、企業内のすべてにアクセスされる。…
顧客のデータを取って競合他社のために活用したり、自社で事業を始めたりするような会社を使いたくはないはずだ。」
「ツールとしては高くつく」AIならば、AIプロバイダーは他の事業モデルも考えることになる。
最近Anthropicは、自社のClaudeを活用した創薬事業への参入を発表した。
これなども「ツールとして」だけでなくアプリケーション分野にも乗り出そうという意図であろう。
しかし、これは顧客や潜在的顧客と競合しうる営みである。
AIプロバイダーのアプリケーション分野への進出は、ダモダラン教授が強調する「信頼」を損ねることになりかねず、それが「ツールとして」の普及の妨げとなるのかもしれない。
なお、ダモダラン教授は従前から、割高なAIが安くなるプロセスについても指摘している。
これなども傾聴に値する意見であろう。
