佐々木融氏は、今月出された政府の成長戦略で謳う《2040年度に「名目GDPは1,100兆円に迫る」》との見通しについても検証している。
成長戦略で2040年に名目GDP1,100兆円という欺瞞
日本の名目GDP成長率は過去5年間平均で+3.9%。
この3.9%が続くと…2039年度ぐらいに1,100兆円になる。
高市政権の積極財政がなくても、2039年…1,100兆円になる。
これでは何のための積極財政か、という話になる。
今、政府を仕切っている人たちには、普通にやったらディスインフレに戻る、といった強迫観念があるのだろう。
そうした強迫観念を持つことが自分たちにとって有利に働くため、これが正当化されてしまう。
しかし、ひとたび国民目線で考えれば、現状並みの名目成長を維持することで円安やインフレが収束しない(実質成長率が十分に高まらない)リスクも大いに存在する。
それが、タームプレミアムの上昇となり、現実の社会的コストになる。
現状並みの名目成長を維持するためにそうしたコストを許容すべきなのだろうか。
いやいや、円安やインフレがさらに進むなら、名目GDP成長率の目標はさらに前倒しで達成されるはずだ。
名目GDP偏重の議論では、成長とともにインフレも善と捉えることになりかねない。
この政権には歯止めの機能がないのでは、と心配させられる話だ。
佐々木氏は、政府が最近名目GDPを前面に出すことが多くなった点について心配する。
「実質GDPは、円高だったアベノミクス以前も円安になったアベノミクス以降も同じ0.8%の成長しかしていない。…
インフレで上がっているだけで実質は上がっていない。
昔円高だった時には経済が停滞していたが、今は経済が好調というのは、幻想でしかない。
通貨が下落して膨らんでいるだけ。
やはり実質ベースできちんと議論すべきだ。」
佐々木氏の議論は実にまっとうなものだ。
実は、この点についてはもっとはるかに意地悪な言い方もできる。
先述のとおり、過去数年についてドルの方が円より価値の尺度として適切であるとした主張を受け入れるケースだ。
この場合、円建ての名目3.9%成長、実質0.8%成長という数字はほとんど意味を失う。
(特に円安が進んだ2022年で見ると、実質GNIの数字にもそれが表れている。)
過度に意地悪な見方ではあるが、この見方の方が日本人の生活実感にはるかに合っているように感じる人は多いだろう。
市場の自然な反応を受け入れるならアリ
佐々木氏は日本の財政・金融政策について従前からの注文を言い続けている。
(政府が積極財政を行うにしても)金利上昇を受け入れるのなら、それはそれでよい。
つまり、日銀に圧力かけず、日銀が必要だと思うなら短期金利を上げる。
市場は…長期金利も上がる。
日銀にまた国債を買わせるようなことをせず、長期金利上昇を市場に任せるような形で財政支出を考えるならばそれでいい。
日銀に圧力をかけるのではないか、金利を下げさせようとしているのではないか、と市場が感じると、円安・円売りの方に流れていくことになる。
つまり、市場の自然なバランス機能に任せるという考え方だろう。
財政を吹かし、足下で長期金利上昇・円安が進んでも、市場はどこかで金利上昇という魅力と円安というリスクの間で均衡を見出すだろう。
そうした市場の均衡までの変化を許容するなら、そこで一方的な動きはいったん止むことになる。
それはまた、金利上昇とインフレを通して、財政に対する責任を政府に問うことになり、結果的に財政の持続性を高めるのではないか。
佐々木氏は最後に、為替市場の参加者の動向について紹介している。
- 海外勢: たいした影響はない、また反発するだろう、といった受け止め。
- 国内輸入企業: ドル買いが必要なので助かった、といった雰囲気。
輸入企業の声は、国内消費者を代弁したようなところがあるのだろう。
ただし、これらは円相場のトレンド転換を促すような要素ではないことは注意すべきだ。
