モハメド・エラリアン氏は従前から、世界の状況がいっそう予見しにくくなっていると指摘してきた。
将来のシナリオが1点を中心とした正規分布で近似できるようなものから「マルチモーダル」(複数の山のある分布)なものへと変貌しているというものだ。
そのためには何より選択肢を多く用意しておくことが重要だとし、かつてPIMCOのCEOとして迎えたリーマン危機について回想している。
「世界金融危機についての記録を読むと、私が働いていた会社が危機を予見していたと書かれている。
そういう歴史になったのは、会社が顧客のために大金を稼いだからだ。
私たちはうまく切り抜けた。
創業者ビル・グロスと私は約20年間『それは違うよ』と言い続けてきた。」
エラリアン氏は、リーマン・ブラザーズ破綻前の週末の社内会議を回想する。
リーマン・ブラザーズについての3つのシナリオと実現確率を予想したという。
破綻しない 85%
秩序ある形で破綻 12%
無秩序に破綻 3%
そしてその直後、現実は「3%」となった。
エラリアン氏は、予想は外れたが、すべてのシナリオに対して行動計画を準備したことが功を奏したと振り返っている。
この時PIMCOは、3つのシナリオの対応策だけでなく3パターンの法的書類まで準備していた。
週明けの月曜日の朝一番、弁護士を破綻したリーマン・ブラザーズに出向かせ、必要な書類を提示、法的手続きをとったことは有名だ。
PIMCOは資産を最大限に保全し、莫大な損失を被った他社との差は歴然となった。
メインシナリオ以外まできちんとリスクを棚卸し、行動計画を持っておくという好事例は、投資家への教訓だろう。
この話について元MI6長官が語った言葉がとても印象的だった。
「こうした選択肢を持っておくというやり方は、まさに政府がやらないことだ。」
メインシナリオに一点賭けし、痛手を深めてしまう政治がしばしば見受けられる。
しかも、合理性・実現性の低いメインシナリオで夢を見ているような政策ならば、ますます危うくなっていくだろう。
