佐々木宏夫 早稲田大学名誉教授による、軽快な経済書。
「人生百年時代の新戦略」という副題が付いている。(10/26 浜町SCI)
FIREした人、狙っている人も一読してみるとよいだろう。
「人生百年時代」と言われるようになり、人は長く生きるようになった。
60-65歳とされることが多かった定年退職年齢ももはや引退の年齢とは言えない。
佐々木教授はこのことを、「第一の現役時代」の後、「第二の現役時代」を迎えると表現している。
読者の中にも「第一の現役時代」を終えた人、終えつつある人がいれば、まだ長く続きそうな「第二の現役時代」をどう生きるか思いを巡らすことがあるのではないか。
タイトルの「再入門」は、本書の構成をよく表している。
本書では、経済学やその周辺の理論・モデル・フレームワークをまず復習し、それを用いた事例・時事の解説が与えられる。
例えば、投資家にも馴染みのあるところでは、フランク・ナイトによるリスクと不確実性の定義が紹介される。
リスクは結果と確率分布がわかっている状況、不確実性は確率分布が不明・測定不能な状況である。
こうしたフレームワークを用いて、現実社会をわかりやすく整理していく。
佐々木教授は、第一の現役時代を「『リスク』に直面する時代」、第二の現役時代を「『不確実性』の時代」と書き、第二の現役時代では取りうる選択肢が限られてくると指摘している。
また、教授は「序」でこう書いている。
「…第一の現役時代にとって、『死ぬリスク(残された家族の困窮など)』が極めて重大な恐怖の源泉であった。
しかし、第二の現役時代において真に恐るべきは、病気や怪我、あるいは介護の発生などの『生きるリスク』である。」
「生きるリスク」(ナイト流に言えば《生きる不確実性》)に対して選択肢が限られるからこそ、第二の現役時代には「戦略」が必要だと説いている。
もっとも、本書がカバーするのは個々人の生き方といったミクロな視点だけでなく、社会のありようといったマクロな話題まで及ぶ。
決して暗い、重苦しい話でもない。
提案はあるが押し付けはない。
むしろヒントを提供するといった書きぶりだ。
理論・モデル・フレームワークの復習の部分が既知でやや退屈と思えば、その部分を適度に読み飛ばすこともできる。
300ページを超える著書であり、多少読み飛ばしても十分に堪能できるだろう。
第13-14章ではジョン・スチュアート・ミルの思想が語られる。
マクロな視点の議論が展開され、次第にミクロなトピック、特に第二の現役時代へのアドバイス(終章)に向かっていく。
この本を読めば老後やFIRE後は安泰、といったいかがわしい本ではない。
極めて正統的で知的、かつ読みやすい本になっている。
