ウィリアム・ダドリー 元ニューヨーク連銀総裁は、平時のフォワード・ガイダンスは不要との考え方だ。
一方で、金融政策の反応関数まで明かさなくてよいということにはならないという。
中央銀行の反応関数とは、どのような経済指標(物価・景気など)の変化・水準に対し、中央銀行がどのように金融政策を変更・維持するかの考え方・ルール・パターンのこと。
ダドリー氏は、フォワード・ガイダンスのように政策の先行きを予告する必要はないが、考え方・ルール・パターンは明らかにすべきと主張する。
ウォーシュ議長が記者会見で決定の理由を明示しなかったことで、市場はどのように意思決定がされたのかを知ることができず、FRBに対する不信感を引き起こしたのだという。
市場には、ウォーシュ議長が確信犯だとの見方も存在する。
大統領を怒らせないよう利上げを回避しつつ、長期金利上昇で金融を引き締めようという戦術ではないか、との見方だ。
ダドリー氏は真否については語らなかったが、仮に戦術だとしても優れたものではないとして3つの理由を述べている。
- 非効率: リスク・プレミアムを上昇させ、社会厚生に死重損失を負わせる。
- 制御が困難: 経済を鈍化させる手加減が難しい。
- 信認低下: 長期金利上昇はインフレ期待のアンカーが緩んだことを示唆する。
ウォーシュ議長が政策金利でなくバランスシートで金融調整を行おうとしている点についても、ダドリー氏は否定的だ。
FOMCは潤沢な預金準備の維持を約束しており、バランスシート縮小の余地自体が小さいと指摘した。
ダドリー氏は、議長が信認を回復しようとするなら9月あるいは今すぐにでも利上げを行う必要があると話す。
その一方で、インフレの目標からの乖離は大きくなく「ショック療法」は不要との見解だ。
仮に一気に50bp引き上げるようなら、逆に混乱を与えかねないとした。
ウォーシュ議長は、FRBが政策を予告するのでなく、市場に考えさせようというスタンスだ。
しかし、ダドリー氏は、市場に政策を「アウトソース」することはできないと論じている。
市場は、FRBがやるべきことを織り込むわけではない。
FRBがやると市場が予想することを織り込むにすぎない。
したがって、FRBが市場にすべてを委ねようとしても、市場はFRBを見る、FRBは市場を見る、ということになってしまう。
結果、金利の先行きは定まらないままとなる。
FRBと市場がお見合いを続ければ、市場の先行きが不透明になり、ボラティリティは上昇するのだろう。
しかし、この問題はボラティリティの問題だけにはとどまらない。
《神の見えざる手》が経済・市場を適切な方向に導いてくれる可能性は大いに存在するだろうが、同時に市場とはしばしば失敗するものだ。
市場の振る舞いの背景にある価値観が、社会が選択すべき、あるべき価値観と一致する保証はどこにもない。
そのためにも中央銀行の反応関数を明らかにすることは重要だろう。
それは、私たちがAIに何かを頼む時、可能な限り具体的な要件定義を記述すべきであるのと似たようなことだ。
