国内経済 書評

【書評】 金融政策の「誤解」 – “壮大な実験”の成果と限界
2016年10月29日

通貨発行益(シニョレッジ)のしくみ

もう1つのマニアックな楽しみ方は、細かすぎる議論にも最小限の指摘をしてくれている点だ。
ここではシニョレッジについての議論を紹介する。

リフレ派の中には通貨発行益の発生をマネタリー・ベース拡大のメリットの一つとして吹聴する人がいた。
これは、マネタリー・ベース=日銀券残高+日銀当座預金残高であることに着目した議論だ。
日銀当座預金残高が小さく安定的だった時代には、マネタリー・ベースとは日銀から見れば利息の付かない資金調達を意味していた。
マネタリー・ベースを拡大(≒日銀券を発行)すればタダのお金が手に入り、(当時まだプラスだった)国債を買えばタダのお金が利息を生んだ。
この現在価値を「通貨発行益」(シニョレッジ)と呼ぶ。


この議論は、日銀当座預金の法定準備預金額までは敷延できるが、超過準備の部分からは話が違ってくる。
マネタリー・ベースを拡大して超過準備が大きくなってくると、付利されている超過準備にはシニョレッジのつきかたが変わる。
仮に、付利=市場金利であると、シニョレッジはつかない。

マイナス金利になると、再びシニョレッジがつき始める。
なにしろ、日銀は市中銀行から借金をして金利を受け取っているのだ。
ただし、日銀は総額で見て受取金利が増えないよう配慮している。
金融政策によって銀行経営を苦しめてもいいことはない。
いずれにせよ、シニョレッジを大きく享受できる時代は終わったのではないか。

シニョレッジの罠


早川氏は、このシニョレッジをメリットとする主張を否定している。
(具体的には、シニョレッジを考える場合のマネタリー・ベースに日銀当座預金残高を加えるべきでない、と主張している。)
シニョレッジにも巻き戻しがあるからだ。
将来、金融市場が正常化していけば、日銀の付利も市場金利の上昇についていかなくてはならない。
つまり、得られていたシニョレッジは失われる。

付利を引き上げる代わりに日銀当座預金残高を減らすという手もある。
しかし、これは市中銀行に日銀が資産を売ることを意味しており、その内容のほとんどは国債だろう。
あまりにも大きくなってしまった日銀当座預金残高を考えれば、債券を売れば金利急騰が、REITを売れば不動産急落が、ETFを売れば株価急落が起こるだろう。

(次ページ: 罠のゆくえ)


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