オークツリー・キャピタルのハワード・マークス氏が、売り時について理屈っぽく議論している。
細かな点を別にすれば、人々は疑うことなく、上がった投資は売るべきとの考えを受け入れているのではないか。
しかし、この基本的概念はどれほど役立つものだろう?
マークス氏が「Memo」において、投資の売り時について論じている。
同氏は「安く買って高く売れ」に代表される相場の格言はせいぜい出発点に過ぎないと書いている。
確かに「安く買って高く売れ」については、買いと売りのそれぞれについていつ・何を・どうやって・いくらで・いくつ売買するかが重要だ。
マークス氏は、人々の行動を観察し、彼らが売る理由について2つ確信を深めたという:
「上がっているから、と、下がっているから。
バカみたいというかもしれないが、本当にバカみたいなのは投資家の行動なんだ。」
- 上がったから売る
心理的あるいは事業上の理由で、利益計上や利益確定を望む時がある。
しかし、リターン最大化の観点からいえば、売却代金を再投資する限り、この理由は本質的ではない。 - 下がったから売る
「利益を実現するためだけに上がった資産を売るのが間違いであるように、下がったから売るのはさらに悪い。
それでも、多くの人がこれをやっている。」
バブルとクラッシュへ過剰反応が起こるのも、このパターンだ。
マークス氏は、オークツリーが得意とするディストレストへのバーゲン価格での投資も、市場参加者の過剰な悲観が与えてくれると書いている。
マークス氏が言いたいのは、単に上げ下げしたから売るのは間違いということ。
あくまで投資先の中身、投資の狙いの妥当性に基づいて判断すべきということのようだ。
その観点から、上げ下げに基づき煩雑に売買を繰り返すトレーディングではなく、長期投資が有利であると断言する。
その一方で、長期投資にはメンタルの強さが必要になるとも認めている。
例として、1998年にIPOしたAmazon株を挙げた。
IPO初日5ドルだったAmazon株はいまや600倍の3,304ドル。
この長い株価上昇の中で、どこで買ったとしても売らないでいるのは難しかったはずという。
マークス氏は、売りの理由として「相対的選択」の重要性にも言及している。
- 投資の狙いの妥当性が下がったら減らす。
- 他にもっと有望なものが出てきたら、既存を減らして振り分ける。
つまり、ある投資対象へ投資するか否かは、他の投資対象との比較において判断されるべきということ。
マークス氏は、「相対的選択」に程度の問題が存在すると指摘する。
「相対的選択という考えに基づき、1つの資産を売り他を買うべき時は存在する。
しかし、これは機械的には行えない。
そうすれば、極端なことをいえば、すべての資本を最高と考える1つの投資先に投じることになる。」
相対的選択を突き詰めれば、リスク調整後リターンが最大の投資先だけにフルインベストという話になってしまう。
マークス氏は、投資分散にも存在意義をを認めている。
そして、分散効果を最大限得るための「ポートフォリオ最適化」については、人間の判断が必要になると書いている。
「どこに限度を求めるかを科学的に計算する術はない。
いいかえると、ポジションを減らす、またはすべて売却するという決断は、判断を必要とする。」
マークス氏が今回、テーマとして売り時を選んだ理由は明らかだ。
市場に価格がピークアウトするのではとの予想が強まり、売りを考える人が増えるかもしれないからだろう。
これは《上がったから売る》行動の一例だ。
仮に実現すれば、押し目買いの強さ如何では、次に《下がったから売る》局面が近づくかもしれない。
マークス氏は、近いうちに「一時的下げ」が予想されるから売ろうとするのはマーケット・タイミングであり、うまくいかないと否定的だ。
シカゴ大学出身者らしく、そもそもアクティブ運用(特に相場の上下を予想するもの)を信じていない。
「ポートフォリオの構成比を操作したり、マーケット・タイミングのために売買する結果、アクティブ運用のポートフォリオのほとんどは市場をアウトパフォームしない。」
マークス氏は、趨勢的成長の恩恵を得て、複利の魔法を用いることのできる長期投資を奨めている。