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ifと対応しないthen:ブリッジウォーター

ブリッジウォーター・アソシエイツの2人のCIOが興味深い観察を述べている。
日本人には必ずしも当てはまらない話だが、いろいろなところで危うい決め打ちが起こっているようだ。


経済予想の要点とは、if/thenステートメントだ。
もしも(if)インフレと成長率がある水準になるなら、その場合(then)は利下げできる。
今はいずれのifも実現(true)していない。

ブリッジウォーターのボブ・プリンス氏がFT(10日)に語っている。
債券市場の利下げ織り込みが前のめりすぎることを指摘したものだろう。
プリンス氏は金利低下を見込むのは早いと見ているらしく、Tビルからより長いデュレーションへの乗り換えを時期尚早と考えている。
インフレを悪化させずに成長率を高めるには生産性上昇が必要と示唆しているから、裏を返せば、インフレも政策金利もしぶとく居座る可能性を見ているのだろう。

話の内容自体は飛びぬけたものというよりは堅く納得度の高い観察というべきだろう。
興味深いのは、それをプログラミング言語で説明しているところ。
昔から業務や意思決定のアルゴリズム化に注力してきたブリッジウォーターらしい話し方だ。

余談になるが、最近これに似たイメージの話があった。
今月12日にベン・バーナンキ元FRB議長がBOEに提出したレビューの一部だ。
BOEは予想・分析・意思決定・コミュニケーションについてバーナンキ氏に諮問しており、その報告書が提出されてもの。
(貧しい中央銀行の内情を感じさせるところがあり下世話にも面白い。)
12ある提言のうち7と8が「代替シナリオ」についてのものだ。

「提言7 金融政策委員会(MPC)の生産議論を改善するため、中央予想は定期的に代替シナリオによって補強されなければならない・・・」
「提言8 金融政策報告書での中央予想ならびに選定代替シナリオの公表は、リスク管理検討を含む政策選択の理由について公衆がよりよく理解する助けになろう。
選定代替シナリオの公表はまた公衆に、MPCの政策反応関数や金融伝達メカニズムに対する考えについての情報を与えるだろう。」

代替シナリオの議論は、裏を返せば、中央予想の位置づけに対する議論でもあり、ここにも2つの提言がなされている。

「提言9 標準的条件設定は必ずしもMPCの考えを反映しないものの、予想に大きな影響を与える可能性があり、また、中央予想そのものが政策決定の明確な根拠を与えるものでないため、MPCはコミュニケーションにおける市場金利パスに基づく中央予想を強調しないようにすべきだ・・・」
「提言10 中央予想の強調を軽くし、政策声明を簡素化し、コミュニケーションの重複を減らすため、・・・」

身近なところで言うなら、FOMCのドットプロットと実際の政策に論理的整合性がないじゃないか、という話に似ている。
金融政策は複線的な可能性に基づいて決定されるのだろうが、私たちが知らされるのは主に「中央予想」だ。
しかも、それを私たちは「中央予想」というより《メイン・シナリオ》、最も確率の高いシナリオと受け取るクセがある。
If …, then にはelseがつきものだが、そこには目が行っていない。

本来、投資家やフィナンシェは最もelseやelseifに目をやるはずの人種だ。
分散投資などは、そのための対処法だ。
しかし、実際にelseを見ない人は多い。
余に溢れる強気予想などが最たるものだ。

どういうわけだか、株価予想をするときに1本で予想したがる人、そうさせたがる人がとても多い。
でも、1本で予想すれば、そりゃ上昇予想になる。
CAPMの式を見たって、総じていえば株は上がるものなんだから。
大切なのは、上がる予想があるなら、かなりの確率で下がる確率があるということ。
だからこそ、現株価は強気予想より下にあるのだ。
(仮に弱気予想がありえないなら、株価はすでに強気予想の数字に寄せているはずだ。
弱気予想があるからこそ、今の株価は強気と弱気の間に収まるものなのだ。)

話をブリッジウォーターに戻そう。
同社のカレン・カーニオルタンブール氏がYahoo Financeで、米国株の割高感を警告している。
テックなど米大型株に概して強気としつつ、世界中からあまりにも資本が集中しており、再配分が起こるとの見方だ。
同氏は、2010年頃はバリュエーションは低く、経済は安定し、インフレは低かったと指摘する。
このため、株式を多く、債券を少なく持てば大成功を収められたという。

「この環境が繰り返すことはないといっていいだろう。
2020年代は大きく異なるように見え、バリュエーションははるかに伸びきっている。
インフレの重力ももはやゼロではなくなった。」

ディスインフレでなくなれば、かつて市場を支えたFRBプットは望めなくなる。
だから、elseや代替シナリオの影響が大きくなる。
カーニオルタンブール氏、今後は、打たれても戻す力のある(resilient)ポートフォリオを目指すべきとし、3点をアドバイスしている:

  • 配分の集中を避ける(債券も選択肢に戻ってきた)
  • 打たれ強い銘柄の選別
  • 総崩れやテールリスク実現時に最良と予想されるものを探す

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