米CNBCが「米国の債務スパイラルはいかにして次の危機を引き起こしうるか」と題した20分弱のビデオを公開している。
とてもよくまとまっており、かつ文字起こしも完璧なので、聴くか翻訳を読むかするとよい。
FPに度々登場する著名投資家・エコノミストの話も多数挿入されており、言うなれば債務問題のアベンジャーズのような映像になっている。
4日に「大きな美しい法案」が成立し、米政治が当面財政悪化を容認するのが確実となったところで、この話題がいっそう強力なナラティブになっているのだろう。
ここではベテラン・エコノミスト エド・ヤルデニ氏の発言を紹介しよう。
同氏は「債券自警団」というバズ・ワードを造語したことでも有名だ。
1970年代にインフレの嵐が吹き荒れた後、ボルカー・ショックによりインフレが鎮火した1980年代のことだ。
「投資家の間に再燃しうるのではないかとの恐怖が多くあった。
そこで私は『債券自警団』という造語を作った。
FRBや政府が責任ある姿勢をとらない、インフレを低く保つよう経済運営を行う保安官の役を務めないならば、債券自警団がその役を務めるだろう、との意味を込めた。」
インフレが吹き荒れた1970年代は治安も悪化した時代だった。
1971年のクリント・イーストウッド主演『ダーティーハリー」、1974年のチャールズ・ブロンソン主演『狼よさらば』など、法に縛られない勧善懲悪、自警主義さえ支持される風潮にあった。
フィクションだけにとどまらず、1979年にはガーディアン・エンジェルスなども生まれている。
お上がやらないなら市民がやる、といった考えだ。
ヤルデニ氏の造語は、放漫財政を続ける政府に失望し、他のものに期待をかけるという思いを象徴したものだったのだろう。
その後の米国では、1990年代にクリントン政権が財政黒字化を実現したが、すぐに慢性的財政赤字に逆戻りしている。
CNBCのビデオでは、ヤルデニ氏が債券自警団を造語した1983年と比べ現在の財政赤字が10倍に膨れ上がっていると紹介している。
ヤルデニ氏はこう続けている。
債券自警団はかつてない強大な力を有している。
問題は、彼らがその力を行使するか、債券市場に対する非常な影響力を行使するかだ。
今それがかつてなく重要になっている。
インフレを下げるために景気後退を引き起こす水準まで債券利回りを押し上げるのかだ。
日本ももちろん債券自警団の一員たる資格を十分に有している。
ビデオでも紹介されているが、日本は諸外国の中で最大の米国債保有国だ。
関税をはじめ無理筋の要求を押し付けてくる米国に対し、自警団の一員として反撃するだろうか。
もちろんちゃぶ台をひっくり返すなら日本の側にも大きな被害が及ぶだろう。
しかし、最近の米国の横暴ぶりは、その可能性がゼロではなくなっているのではないかと思わせるところがある。
少なくとも、米国が日本にサービス黒字を有し、さらに財の赤字を減らずなら、自動的に日本から米国への資金還流システムは細っていくことになる。
最後に、ビデオの中から印象深かった2つの発言を紹介しよう。
ウォートン校で政府予算モデルによる財政予想を行っているケント・スメッターズ教授:
債務では債務問題の脱出はできない。
その時にはもう遅いんだ。
超党派のNPO「責任ある連邦予算のための委員会」の代表を務めるマヤ・マクギニーズ氏:
緊急事態がない時代なんて存在しない。
米国もすっかり日本化している。
ビデオでは2022年の英国トラス・ショックも紹介されている。
選挙を控える日本は他国を嗤える立場ではないだろう。