ブリッジウォーター・アソシエイツ創業者レイ・ダリオ氏が、珍しく投資に主眼を置いた発信を行っている。
そこには、ある種の諦観さえ感じられる。
国家が過大な債務を抱えた時に最もありそうなことは、政府の政策決定者が金利を押し下げ、債務の通貨を減価させることを望むということ。
だから、そうなることに賭ければ報われる。
ダリオ氏が自身のSNSで、現状に対して投資家がどう対処すべきかを書いている。
この数年ダリオ氏は米財政悪化や国内・国際的な対立の脅威を警告し続け、ワシントンの政府・政治家にも活発に財政再建を働きかけてきた。
その主張の切迫感は前回の投稿にも如実に表れていた。
今回の投稿は少しトーンが異なる。
ダリオ氏の諦観さえ感じられるのだ。
もはや(程度はどうあれ)債務危機・通貨危機のようなショックが避けられないと見て、一般の市民に対し少しでも身を守る方法を語っているようなのだ。
債務過多の国が金利を押し下げ(金融抑圧)、自国通貨を減価させる(通貨安誘導)ことについて、ダリオ氏は短期と中長期で分けて考えている。
- 短期: 景気刺激となり資産価格を押し上げる面があり、歓迎されやすい。
- 中長期: 将来リターン低下・インフレ上昇・債務増の助長により「有害」。
なんとも、この十数年間の日本を総括しているようにさえ思える分析だ。
ダリオ氏は、金融抑圧と通貨安誘導では「財政赤字やさらなる債務増という痛みをともなう結果を避けることはできない」と書いている。
短期的に享受される恩恵が中長期の「悪い結果を隠し」てしまうと心配している。
これまでダリオ氏は、実質金利を可能な限り引き下げ、インフレと通貨安にすることで、債務の価値を減価させ、財政再建に注力せよと説いてきたのだから、かなりトーンが変わってきたようだ。
金融抑圧や通貨安誘導を行っても、政治の側に財政再建の意思がなければ、逆に債務増を助長するだけと見切った結果のように見える。
ダリオ氏は、自国通貨を価値の物差しとせず、自国通貨の価値を疑うよう読者に説いている。
政府がインフレや通貨安を望む理由を次のように表現している。
「通貨安は『隠れた』債務返済法だ。
みんな自分の富が減ったことに気づかないからだ。」
インフレや通貨安は保有する通貨・債務性資産の購買力を奪う。
それでも、米国のように外国から莫大な投資を受ける側はいいかもしれない。
負担の多くを外国に押し付ける効果があるからだ。
一方、国債のほとんどを自国で消化する国は最悪だ。
この「債務返済法」で損をするのはほぼすべて自国の市民なのである。
(次ページ: 貨幣錯覚で喜ぶ残念な投資家・市民たち)