ブリッジウォーター・アソシエイツが投資家向けメールで、トランプ政権がもくろむパラダイム・シフトを解説し、米国株への弱気スタンスを示唆している。
明白なことを言うと、現在私たちは、既存の世界秩序と通貨システムに脅威を及ぼす、劇的に異なる経済・市場環境に直面している。
ブリッジウォーターが投資家に送ったメール(3人の共同CIO名)で、現状を説明している。
同社らしい、大きな変化を先読みしようという意欲が感じられる内容だ。
ブリッジウォーターは新たな環境を「新たな重商主義パラダイム」と呼び、これまでとは全く異なった状況になると予想している。
これが投資において4つの面で脆弱性を増大させているという:
- 経済成長: 政策に起因する成長鈍化
- FRB: ディスインフレが去りスタグフレーションのリスクで金融緩和が困難に
- 米国株: 脅威にさらされているのに強い企業利益が織り込まれている
- 相対パフォーマンス: 米国離れにより外国資本に依存する米資産のリスク大
メールでは、新たなパラダイムに合うよう投資ポートフォリオを組みなおす必要があると促している。
さらに、変化を大きくしているものとして、AI等による「1世代に1回の技術的破壊」が挙げられている。
生産性に影響する技術革新が「構造的・社会的変化」を引き起こすだろうという。
市場に関しては、誰が勝ち組になるか、勝ち組が勝ち続けられるのかを論じるのは時期尚早だ。・・・
多くの点でこのAIストーリーは1990年代終わりのインターネット・ストーリーに似ており、私たちは、1998年前後と似たストーリー初期にあると信じている。
メールでは、1998年以降ドットコム・バブルを経て起こったことを回想している。
- 当時予想されていたネットの進歩はほぼすべて実現
- 「1998年からの15年で米国株は最もパフォーマンスの悪かった資産であり、米国債・新興国株式・金を下回った」
- 最終的な勝ち組はまだ存在もしていなかった
つまり、まだAI関連で誰が勝ち組かはわからない、米市場にも苦境が起こりうる、といいたいのだ。
ブリッジウォーターの示した類似は将来を占う上で重要なポイントだろう。
一方で、1998年と今では特筆すべき類似点(?)と相違点があることも注意すべきだろう。
類似点(?)とは
- 仮にインフレが再上昇しない場合、1990年代後半と同様《インフレなき景気回復》が実現し、FRBの緩和が可能となり、資産価格に追い風となりうる。
相違点は
- いわゆるドットコム銘柄は、業績をともなわないうちに高騰し、ばかげた株価がついていた。
- バブルがセグメントの一部で起こったが、そのセグメント内では多くの銘柄が高騰した(そして消滅・暴落した)。
- 米財政が目覚ましい回復をした時期であり、インフレが上昇せず、財政・金融政策の自由度が大きかった。
- 1998年はアジア通貨危機の翌年であり、同危機が米国への資金流入をもたらしていた。
技術革新の可能性については共通しているものの、ファンダメンタルズの面では異なる点(特に真逆の点)も多いことがわかる。
ブリッジウォーターの予想する変化が一時的にせよ幸福を呼ぶと期待するのは危険だろう。
生産性上昇など大きな変化が起こりそうだが、それが引き起こす投資環境の変化は全く異なるものになりうる。
(次ページ: ブリッジウォーターはなぜ1998-2013年に注目したのか?)