投資

ウォール街 「今回は違う」vs「歴史は韻を踏む」
2023年6月22日

題名は投資の世界でよく引かれる言葉の一部だ。
ここでは今回違うことの意味を検証しておこう。(浜町SCI)


前者はジョン・テンプルトンの言葉の一部:

「投資の世界で最も危険な4語は『This time it’s different.』(今回は違う)だ。」

後者はマーク・トウェインの言葉:

「歴史は繰り返さないが、韻を踏む。」

投資の世界ではいずれも、前例を無視すると痛い目に遭う、といった意味で使われている。
悩ましいのは、いずれの発言でも一部留保している点だ。
トウェインは「歴史は繰り返さない」と断りを入れている。
テンプルトンは「20%の場合は本当に違う」とも言っている。

今回は、何が韻を踏み、何が違うのか。
何が違うかと言えば、何といっても世界中が久しぶりにインフレ的な環境になったことだろう。
インフレの中で弱気相場入りする可能性がある点(スタグフレーションのイメージがかぶる)がいつもと違う。

弊社が昨年上市した『超長期サイクルが終わる時』では、ブリッジウォーター・アソシエイツ創始者レイ・ダリオ氏の経済・市場サイクル観を紹介した。
その中で、サイクルの調整過程がデフレ的環境となる場合、インフレ的環境となる場合があると指摘した。
今回(あるいは次回は)インフレ的になる可能性が高まっている。
人々がスタグフレーションを懸念しているのがまさにその表れである。

では、今回のこの違いは現時点の株式投資にどういう影響を及ぼすだろう。
そこで過去の高インフレ下の名目株価に注目したい。
いつもながら、国内市場は十分なデータがなく、米市場を検証する。
具体的には3つの時期、いずれも2桁インフレの時代だ:
・第1次大戦中から直後
・第2次大戦前後
・1970年代からボルカー・ショック

データセットはこの分野の権威ロバート・シラー教授によるデータを用いた。
教授は実質トータルリターン指数を計算してくれている。
名目トータルリターン指数は、教授による株価指数・配当の数字から浜町SCIで計算した。

第1次大戦中から直後

インフレと米国株のトータルリターン指数(1916年1月=100)
インフレと米国株のトータルリターン指数(1916年1月=100)

実質のトータルリターン株価指数(配当込み指数、TR指数、青)が右肩下がりになっている。
これは、株式市場への投資の価値がインフレ影響を補正したベースで低下したことを指している。
複合的な原因があろうが、インフレがマイナス要因の1つであるのは間違いないだろう。

一方、名目指数は横ばいに見える。
当初ピークから3割弱下落する局面もあったが、そこから1年半ほどでピークに戻している。

当たり前のことだが、インフレならば名目(赤)が実質(青)を上回る。
この2つのギャップがインフレだからだ。
高インフレの時代を選んでいるから、この2つの差が比較的大きくなっている。

第2次大戦前後

インフレと米国株のトータルリターン指数(1941年1月=100)
インフレと米国株のトータルリターン指数(1941年1月=100)

こちらは名目・実質ともにより順調な推移であったように見える。
実際のところ、名目指数では弱気相場の定義とされることの多い20%下落さえ経験していない。

1970年代からボルカー・ショック

インフレと米国株のトータルリターン指数(1973年1月=100)
インフレと米国株のトータルリターン指数(1973年1月=100)

1970年代前半の下げは4割程度となっているが、これはニフティフィフティの反動による「株式の死」を反映したものだ。
つまり、その前にバブル的要素があり、バブル崩壊にともなって下げ幅が大きくなった面がある。
「死」と呼ばれるとおり実質指数は長期停滞している。
一方、名目指数は「死」というにはほど遠い。

さて、最初に今回は名目株価に注目すると述べた。
では、インフレ上昇の現在どうして実質でなく名目に注目するのだろう。

(次ページ: インフレなのにどうして名目)


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