ふくおかFGの佐々木融氏が、参院選直前の17日のReutersへの寄稿で「日本売り」のリスクについて注意喚起している。
佐々木氏の主張は原典を読めば明解に理解できる。
ここでは、原典の中で2か所、興味深い言及について紹介したい。
与党が示す経済成長目標の含意
自民党は2040年度までに名目GDPを1000兆円にするという目標を掲げているが、今後日本のインフレ率が現状レベルで推移するだけで目標は達成できる。
2024年の名目GDPは609兆円。
1,000兆円とはその1.64倍。
2024年から2040年までの16年間のCAGRを計算すると3.1%強。
足下6月のCPI(前年比)は総合で+3.3%、コアコアで+3.4%だ。
足下のインフレが継続すれば、実質ゼロ成長でも実現できる数字が政権与党から目標として示されている。
しかも、日本の実質政策金利は大きくマイナス圏に沈んだまま。
意地悪な言い方をすれば、この名目成長目標をインフレで実現しようという決意のようなものさえ感じられる。
そもそも昔から、多くの与野党の政治家が《成長なくして財政再建なし》などという軽口を叩いてきた。
そうした理屈で非効率な財政支出を正当化し、財政をいっそう悪化させてきた。
インフレの時代へと変わり、与党は実質成長を望んでいないのではないか、と思わせるような数字が提示されている。
もちろん、与党の考えは、インフレは低下させ、経済成長は高めていく、というものなのだろう。
しかし、過去数十年の経緯、現状のインフレ、財政状況を考えた時、そんな話が実現しうるのか、と思う人も多かろう。
なにしろ、政策金利も長期金利も、実質ベースでゼロにとどかないのだから。
「日本売り」はまだ始まっていない
こうした二つの要因(編集注:財政についての政治状況と日米通商交渉)が重なったことで、日本国債、円、日本株が売られる「トリプル安」という現象になっていると考えられる。
もっとも、今のところはまだ「日本売り」と呼ぶほどの事態にはなっていないだろう。
円について言えば、現状の円売りは、歴史的水準まで積み上がっていた投機筋の円ロング(買い持ち)ポジションの手仕舞いが進んでいることが背景にある。
しばらく心配されてきたIMM投機筋ポジションの買い持ちの巻き戻しを指摘したものだ。
佐々木氏自身が断っているとおり「トリプル安」「日本売り」というのはまだ言い過ぎだろう。
特に、株価については下がっているというよりは上がっているというべきだ。
ただ、それだけに心配はいっそう募る。
株価上昇の原因は果たして日本買いなのか。
いくらかは円資産を持たざるをえない投資家が、消去法で日本株を持っているだけなのではないか。
いつか、名目株価が下がらなくても、実質株価、つまり株式の価値が下落することにはならないか。
そんな心配をする人も多いのではないか。
また、まだ「日本売り」になっていないからこそ怖い。
仮に「Sell the rumor, buy the fact.」(噂で売って事実で買え)ならば安心だが、まだ噂で売られていない可能性もある。
仮にそうなら、日本にはまだ下落余地があるということになる。
いやいや、あまり悲観に振れるのはよくない。
明日に迫った選挙では、インフレの中での財政支出、円安の中での外為特会取り崩しさえ話題に上っている。
20日の参院選は、日本の金融市場にとって、あるいは投資家にとって、いつになく大きな選挙なのかもしれない。