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ハワード・マークス ハイイールド債、プライベートクレジット、米国株:ハワード・マークス
2025年3月7日

補稿:「リスク」についての厳密な理論的解説

1つ論評させていただくなら、今回のマークス氏の説明は、リスクについての同氏の定義に基づいている。
マークス氏にとってのリスクとは、下方リスクのことを指す。
しかし、ファイナンス理論における狭義のリスクとは上下に分布するブレを指している。


マークス氏はこのMemoの中で、ハイイールド・スプレッド(ハイイールド債のリスクプレミアム)をデフォルト率とデフォルト発生時の毀損率で論じている。
しかし、これは主にファイナンス理論における期待リターンの議論であり、二次的にリスクにも関係するものだ。
3.5% × 2/3 = 2.3% という目の子計算は、期待リターンが契約上のリターンよりどれだけ低下するか、つまり期待リターンの議論にほかならない。
(もちろん、これは二次的には狭義のリスクにも関係している。)
ハイイールド債にかかわるファイナンス理論における狭義のリスクとは、この低下幅ではなく、将来リターンが現時点で定まらないことにある。
ファイナンス理論では、この狭義リスクに対して、リスク回避的な投資家がリスクプレミアムを要求するとしている。

では、マークス氏の今回の議論は間違いなのか?
そうとも言い切れない。
世の中にはこの狭義のリスクを無視できる人がいる。
それは、投資を銘柄and/or時間によって十分に分散する投資家だ。
こうした投資家は、リスクプレミアムを無視することがある。

たとえば、ある投資家が国債またはクレジットに投資しようとしたとする。
期間は1年間で、1銘柄の投資だとする。
クレジット・スプレッドは年間の期待毀損率と釣り合っているとする。
ファイナンス理論では、リスク回避的投資家は国債を選択することになる。
国債(リスクフリーと仮定)にはリスク(上下のブレ)が存在しないためだ。

しかし、条件が異なれば結論も変わりうる。
期間を数十年とし、多くの銘柄に投資するとしよう。
こうすると、個々の銘柄の短期的なブレはあまり気にならなくなってくる。
こうした時、狭義のリスクが無視されることがある。

ウォーレン・バフェット氏が株価評価の割引率に国債利回りを用いるのもその一例だ。
マークス氏もこの一人。
こうした人たちは、銘柄または時間によって狭義リスク(シグマのみならなずベータまで)を平均化することで無視できるのである。


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