グリーンライト・キャピタルのデービッド・アインホーン氏が、バリュー投資の現状と自社の戦略を語っている。
市場の構造が変わった。
市場は壊れてしまった、あるいは、バリュー投資業界が言うなれば敗北したような状態になっている。
アインホーン氏がデービッド・ルーベンスタイン・ショーで、バリュー投資が直面する困難な状況を説明した。
価値と価格の乖離に着目する伝統的な投資手法が通用しなくなったとの持論だ。
同氏が主張する市場構造の変化とは、パッシブ投資の急拡大である。
構造変化の前は、投資の世界では大手ミューチュアルファンドのようなロングオンリーのアクティブ投資家が主役だったという。
多くのアナリストを抱え、個別銘柄を調査し、株式の経済的価値よりも価格が低くなっているものに投資していた。
バリュー株だろうがグロース株だろうが、投資のロジックは《価値よりも安い価格》つまり過小評価にあった。
そのために、多くの人が株式の価値について研究していた。
アインホーン氏の言う構造変化とは、パッシブ投資、インデックス投資の急拡大だ。
パッシブ・ファンドの安いフィーに対抗せざるをえないのに、アクティブ・ファンドでは銘柄調査のためのコスト負担が大きく、採算が取れなくなってきた。
結果、市場の主役はパッシブ・ファンド、プロントランを狙うアルゴリズム、上がるのを予想して買うリテール投資家になったのだという。
「今日の投資のほとんどすべては、その株にもっと価値があると思うから買う投資家によるものではなくなった。
大多数の投資家は『明日の株価はどうなるだろう』というように、価格について考えている。
結果、現在の売買のほとんどは価値とは関係なく行われている。
これが、私たちをある種の恐竜にしてしまった。」
かつてロバート・シラー教授は、パッシブ運用を《ただ乗りの疑似科学》と称し、人類の知性を薄めると警告したことがある。
株価インデックスが効率的ポートフォリオとなるためには、アクティブ投資家が個々の銘柄の割高・割安を調査し、売買によって経済的価値に近づけるよう行動することが前提となる。
そのアクティブ運用が廃れれば、株価インデックスはもはや効率的ポートフォリオとはならない。
それでもパッシブ運用が市場を動かす主たる力である以上、効率的市場仮説の言うような不合理の是正は実現しない。
ヘッジ・ファンドとは市場に潜む不合理に裁定を働かすことで利益を得る営みだ。
仮にアインホーン氏の言うように不合理が解消しない市場なら、裁定取引を試みても意味がない。
バリュー投資家を自認する同氏は、どのような戦略でこの難局に対処しているのか。
「配当だけでも投資としての価値がある銘柄に投資している。
あるいは、自社株買いなら、価値ある投資としてより大きなリターンを与えてくれる。
もしも他の人がその銘柄を見直して(買って)くれれば、(株価が上がり)アップサイドになるが、それをメインシナリオにはしていない。」
かつては、不合理が解消するにつれ、流通市場で株式を売却し利益を得るのが主たる回収手段だった。
現在のアインホーン氏は、流通市場での売却でなく、株主還元(あるいは投資先の再編・合従連衡)による回収を目指しているのである。
それを比較的短期間(「数年」)で実現しようともくろんでいるというから、かなり厳選する必要があるはずだ。
近年まで毎年大きな注目を浴びてきた、ウォーレン・バフェット氏とのランチ権のチャリティ・オークション。
その1回目の落札者はアインホーン氏だ。
アインホーン氏はバフェット氏を敬愛し、同氏に倣うように保険会社を傘下に収めている。
バフェット氏は昔から売却を前提としない投資(コカ・コーラなど。最近では日本の商社株も超長期保有を示唆)も手掛けてきた。
株式でなく企業(の一部所有権)を買うとのスタンスであり、最近では他社と組んで投資先のバリューアップも手掛けている。
バフェット氏を「ベスト」と称賛するアインホーン氏はどうか。
「私たちは証券を買っている。
永遠の保有を理想とはしていない。」