そんなこんなで、市場株価がTOB価格を上回ったとする。
すると、一般株主のTOB応募へのインセンティブは、市場株価が上回っている限り、ほとんどなくなる。
この状態がぎりぎりまで続くと、買付数の下限を設けているTOBでは不成立に終わってしまう。
ここで、第4のシナリオが生まれる:
d) TOB不成立で上場が維持される。
d)の場合、その後の株価がどうなるかは確たる予想が難しい。
TOBがカタリストとなって株価が見直される可能性もゼロではない。
あるいは、TOB発表前の株価に向けてある程度戻ってしまうと考える投資家もいるだろう。
つまり、d)の場合のみ、大きく株価がTOB価格を下回る可能性が意識されてくるのである。
これは、市場価格を押し下げる要因になる。
投資家が市場価格の低下を予想し出すと、TOB成立の確率が高まっていく。
この可能性を高めるケースとは例えば、TOB価格がかなり寛容な水準にあると思われている場合だ。
こんな議論をすると、発行体の担当者から不謹慎とお叱りを受けそうだ。
でも、そもそもの話、そのTOBの意図・価格に納得性があり、競争力があるなら、TOBは成功するものなのだと思う。
では、保有株にTOBがかかった時、どう対処すればいいのだろう。
TOB価格の近傍でさっさと市場売却すればよいのか。
これは、みすみすアップサイドを見過ごすことになるので最良とは言えないだろう。
(ただし、さっさと売り切って、その後の展開も無視するなら、心は安らかになれるかもしれない。)
市場価格がTOB価格を上回る限り、ぎりぎりまで粘って持ち続けるのはどうか。
この場合、b)やc)が起こらず、d)が意識されるようになり、売り遅れてしまうかもしれない。
最終的にTOBに応募するか、スクイーズアウトを待つか(ない場合もある!?)、下がった市場価格で売るかを迫られるリスクがある。
市場のことだから、確たる黄金則があるわけではない。
しかし、気分的なことも含めて、いくつかヒントとなることはある:
- 急いで市場で売却すればいいというものではない。
- 市場株価がTOB価格を大きく上回る場合、一部売っておけば、どちらに転んでも悲しみが少なくて済むかもしれない。
- 最悪の場合に備え、移管やTOB応募の手続き・日程を調べておくとよい。
- 流動性が潤沢な場合、移管ではなく(ルール違反のクロスとならないよう)取引証券会社で売却し、買付代理人の証券会社で買っておく手もある。
TOBがかかった時点で、そこそこ利益が取れるケースが多いのだから、あまりクヨクヨ考える必要もないだろう。
それなりに愛着があって買った銘柄なのだろうから、残りの数週間、心理戦を楽しむのもいいのではないか。