ふくおかFGの佐々木融氏が、日米間の覚書で合意された対米投資について、その規模と潜在的影響について解説している。
ChatGPTに覚書等の翻訳を頼んだら
『この5,500億ドルは間違いじゃないですか?
550億ドルの間違いじゃないですか?』
と聞き返された。
佐々木氏が自社ポッドキャストで、日米で合意された対米投資額5,500億ドル(2029年1月19日まで。80兆円相当)について3つの疑問を呈している。
- 金額が大きすぎる: 昨年時点での8,192億ドルの投資残に対し大きすぎる。過去のペース(年200億ドル)の8倍のペースになる。
- 投資主体が不明: プロジェクトの選定は米政権、投融資・保証はJBIC等とされるが、誰(企業)が実行者か不明。
- 資金の拠出元が不明: JBIC(バランスシート18兆円)は国から調達せざるを得ない。
なるほど、もっともな疑問だ。
理屈に合わない要求に対し、一刻も早く落としどころに落ち着けるために、日本政府が現実的でないのを承知の上で空手形を切ったというところだろうか。
もっとも、米政府が選定するプロジェクトに対し日本が投融資・保証をしない場合、関税の側の取り決めも見直されるとのことなので、不確実性はまだ続くということかもしれない。
仮に日本が対米投資の約束を忠実に果たす場合、何が起こるのか。
佐々木氏は、日本政府が国債等で資金を調達し、JBIC等を通してドル転して資金供与することになるという。
「よく言われるのは『(日本が)ドルで調達すればドル円に影響しない』という話だが、日本はすでにかなり市場でドルを調達している。
昔ならいざしらず、今のように日本の信用力が高くない、国力が高くない時に、もうそんなにドルを貸してはくれない。」
80兆円になるか、その一部で留まるかは別として、この金額は一般会計予算の規模(115兆円)と比べても相当に大きな規模だ。
これをドルで調達しようとすれば、かつて日本が苦しんだ大きなジャパン・プレミアムが再現するだろう。
あるいは、プレミアムを積んでも投資家は後ろ向きになるかもしれない。
かなりの部分を国内で調達することになる可能性が高く、それが日本国債や円に及ぼす影響は想像に難くない。
こうした資金フローがドル円相場にどの程度の影響を及ぼすか、佐々木氏は感触を述べている。
「1兆円のフローでドル円が1円ほど動くイメージなので、仮に半分の40兆円でも円売りドル買いになったら40円動く計算になる。」
財源に外貨準備を使うという観測についても、佐々木氏は2つの理由から否定的だ:
- 覚書では米国の選定後45営業日以内の拠出とされているが、外貨準備中の「預金」は1,611億ドルしかない。
- 仮に外貨準備を使ってしまうと、円安時の介入資金がなくなり「通貨危機になりかねない」。
なお、既報のとおり、ジェレミー・シーゲル教授は、この財源について外貨準備中の米国債からの振り替えを予想している。
佐々木氏のプレゼンテーションにも、外貨準備中の「証券」として「9,814億ドル」との記載がある。
仮にこの一部でも45営業日以内に取り崩されるようなら、それはそれで米国債市場を揺さぶるのではないか。
6月末の日本(外貨準備に限らない)による米国債保有総額は1.14兆ドル。
この半分にあたる金額をわずか3年余りで動かすという話は、米国債・日本国債・ドル円のいずれの市場であれ、やはり途方もなく大きい。
仮に実現するなら、大きな変化をもたらすことになるのだろう。
逆に、投資の合意が日本政府の仕組んだ一世一代の空手形なら、関税の側で波乱が待っていることになる。