エンロンなどでの企業不正を見抜き、株式をショートしてきたジム・チャノス氏が、AIのもたらす経済・産業の変化についてコメントしている。
不正・詐欺についても言及しているが、ここではより本質的な影響についてヒントを述べた部分をクローズアップしよう。
「みんなと同様、私も興味津々だ。
ある分野の雇用に置き換わるのか?
新たな雇用を生み出すのか?
産業を廃れさせるのか?」
チャノス氏がInstitute for New Economic Thinkingのインタビューで、AIのもたらす変化について語った。
ただし、同氏にとっても将来の変化を予見するのは不可能だという。
近年のAIブームについて語るとき、2000年前後のインターネット・バブル、ドットコム・バブルと比べられることも多い。
インターネット等の技術の素晴しさを認めるとしても、それが投資の世界にもたらした影響については誰も予想できなかったことも事実。
マグニフィセント7が現在の勝ち組だとして、そのうち2000年でも明らかな勝ち組だったのはマイクロソフトぐらい。
2社はまだ設立さえされていなかった。
逆に、2000年にダントツの勝ち組と思われていた企業の多くはすでに消滅している。
チャノス氏は今回のインタビューで、既存のアナログ製品をデジタル化した会社でもビジネスが破壊されたと指摘し、例としてかつてのエクセレント企業イーストマン・コダックを挙げている。
デジタルの時代を迎え、それに応じてビジネスをデジタル化しても、企業としては衰退してしまったのだ。
チャノス氏は、AI化でも同様のことが起こると予想している。
しかも、技術の進歩が果実を増やすとは限らない点を指摘している。
ネットスケープ(当時最も約束されていると言われていたウェブブラウザ)の前後、1987-97年と1997-2007年の10年間を比べ、実質成長率がほぼ同じだった点を指摘している。
つまり、経済成長は向上しなかった。
少し生産性は上昇したが、人口増加率が低かったことも一因となり、全体の経済成長はさほど高まらなかった。・・・
AIがこれを変えるか、大いに注目している。
インターネット革命では全体のパイの成長率はあまり向上しなかった。
しかし、設備投資と企業収益は(ばらつきはあっても)拡大させている。
チャノス氏は、この現象について注意が必要と述べている。
アニマル・スピリットが掻き立てられるだけでなく、みんなが忘れている、会計の要因も存在する。
1990年代の光ファイバーやインターネットの発展と同様、物理的なテクノロジー資産に集中した大きな設備投資ブームが起こると、そこに裏付けとなる利益がなくとも、業績開示上の利益を大きく押し上げる。
マグニフィセント7に数えられるハイパースケーラーは「2年で陳腐化するかもしれないチップ」を大量に購入しデータセンターを整備し、それを5-7年かけて減価償却していると、チャノス氏は指摘する。
仮にデータセンターの競争力が5-7年続くなら、収入と費用が一致し、会計上の利益が現実に即したものとなる。
しかし、仮に2年で陳腐化するなら、手前の利益は過大であったことになり、陳腐化後には減損などの脅威にさらされることになる。
さらにチャノス氏は、ドットコム・バブルを例にとり、仮に陳腐化しなくとも景気の悪化で利益が出なくなる可能性にも言及している。
チャノス氏の考えのバックボーンは明確だ。
AIやそのインフラの提供者の利益が適正であるかは、最終的には、AIのユーザーがそのコストをAI利用から回収できるかにかかっているということ。
仮に回収できないなら、提供者またはユーザーが後に損失を甘受することになる。
「私が心配し始めているのは、AIの物理的ブーム(データセンター、チップ等)への支出が膨大になっており、もしも誰かが『自社の本質的な経済リターンはどれだけあるのか?』と自問し始めたら、大問題になりうるということだ。」
チャノス氏は、最先端チップの実質的減価(陳腐化)が2年で進むと見ている。
このため、今後2年でどれだけインフラ企業が投資を回収し、どれだけユーザ企業がコストに見合う恩恵を得るかが重要だと言う。
同氏は「とても不快な決断」が下される例が見られるようになるだろうと予想している。