オークツリー・キャピタルのハワード・マークス氏はディストレスト投資を代表する投資家だ。
株式投資家ではないが、バリュー投資家として知られている。
そのマークス氏がバリュー投資、投資家の柔軟性について語っている。
「バリュー投資とは、私の認識では、20年後の企業利益の夢や技術的進展の可能性には投資せず、現在の資産の価値や現在のキャッシュフローに基づいてPERほかのバリュエーション倍率が低い銘柄のみを買うというものだ。」
マークス氏がエジンバラ大学プライベートエクイティソサエティのインタビューで、バリュー投資の進化について語った。
上記の定義は、バリュー投資1.0とでも呼ぶべき古いアプローチによる定義(ベンジャミン・グレアム流)である。
これに対し、同氏の息子アンドリュー氏(グロース株への長期投資家)が異を唱えたという。
そこで示されたバリュー投資2.0は、ウォーレン・バフェット氏がバリュー投資1.0で失敗し、チャーリー・マンガー氏から諭されて始めたアプローチだった。
「アンドリューは『その定義は狭すぎる』と言った。・・・
彼は株式投資にバフェット氏のアプローチを採用した。
例えば、売買可能な紙切れを買うのではなく、企業の一部を買うべきだという。」
バフェット氏が株式投資を証券投資とは考えず投資先企業の部分オーナーになることと考えてきたことは有名な話だ。
実際の行動は同じでも、捉え方によって違いが出て来るのだという。
「企業を買うとするなら、収益力のある企業を買いたいはずだ。
アンドリューが言ったのは、収益力に基づいて企業を買うということ。」
ここで言う「収益力」は、足下の利益だけでなく、今後の利益成長まで含めたものをイメージしているようだ。
だからこそアンドリュー氏はグロース投資を専門にしているのだ。
ただし、そういった「収益力」を計るのは容易なことではない。
マークス氏はここで著名投資家ビル・ミラー氏との会話を紹介している。
同氏は2005年まで15年連続でS&P500をアウトパフォームした(つまり、上げ相場でも下げ相場でも勝ち続けた)ファンドマネージャー。
ミラー氏は1999年(ITバブル崩壊の前年)当時、バリュー投資家として知られていたが、その年も市場をアウトパフォームしている。
いくつかのハイテク株を保有していたのが奏功したのだ。
マークス氏がミラー氏に尋ねた:
「私は彼に聞いた:
『バリュー投資家がApple株を保有する理由は何なんだい?』
ミラーは答えた:
『私にはよいバリューに見えたんだ。』」
1990年代はAppleが衰退した時代であり、衰退したがゆえに1996年スティーブ・ジョブズが復帰を果たした。
1999年、AppleはiPhoneどころかiPodさえまだ発売していない。
2000年代以降大きな利益を上げて現預金を積み上げ、確かにバリュー株の性格を強くしていった。
1999年にまだPCメーカーだったAppleを「バリュー」と見る人は少なかったはずだ。
ミラー氏は、2024年頃からビットコインを保有し始めたとも伝えられている。
一見、宗旨替えとも見えるこうした変化についてマークス氏はこうコメントした:
自分の考えに対してこの程度の柔軟性を加えることは、人が進化すべきことの好事例だろう。
バリュー投資1.0から2.0に進化したバフェット氏にしても、今世紀に入って以前ほどの輝きは失った。
ハイテク銘柄が市場を牽引する局面が多くなったためだ。
ところが、同氏は2016年にApple株に投資している。
バリュー投資2.0から3.0に進化したのだろう。
ただし、進化を続ける当のご本人は、そんなことは気にしていない。
「私たちはグロース投資家でもバリュー投資家でもない。私たちは投資家なんだ」と発言している。
もちろんマークス氏も窮屈な考えに閉じこもるつもりなどない。
もともと、低いバリュエーション倍率に固執するなら、赤字企業相手のディストレスト投資などやれはしない。
また、現在の市場でテクノロジーに依存しない、有望な投資先など皆無に近いとも指摘してきた。
この話にはいくつも考えるヒントが含まれている。
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