モルガン・スタンレーのセリーナ・タン氏が、世界の株式のリスクプレミアムとリスク/リターンのトレードオフについて話している。
「私たちの研究によれば、株式の長期期待リターンは過去数十年より低くなる一方で、米国債・社債などフィクストインカムでは高い利回りにより比較的高いリターンが提供される。」
タン氏が自社ポッドキャストで、世界の株式・債券の今後10年の期待リターンについて解説している。
こうした期待値・予想については予想者によって数字が違ってくる。
ここで紹介する数字が唯一の真実であるわけではなかろう。
しかし、このポッドキャストではいくつか興味深い問題提起がなされており、年末年始の休暇中の恰好のテーマになるのではないか。
冒頭の発言は比較的理解しやすい。
金利は多くの国で抑圧が解かれ、比較的高い水準にあり、今後も極端な低金利は予想されていないのだろう。
これがそのまま「比較的高いリターン」の予想となる。
一方、株式のリターンは株価・配当の変動とともに変動する。
それでも言えるのは、株価バリュエーションが高い時、発射台が高いがゆえにその後の期待リターンが下がると考える人が多くなる。
リターンを、将来キャッシュフロー÷投資額 と定義するなら、分母が高くなればリターンは低くなる。
タン氏は株式の今後10年の期待リターン(年率)を地域別に示している:
全世界: 7%近い
S&P 500: 6.8%
欧・日: 約8%
新興国市場: 4%
新興国市場の低さが目立つが、この理由は後に説明される。
また、10年債の期待リターン(年率)は過去の長期平均より高い水準が予想されている:
米国: 5%近い
ドイツ: 4%近い
日本: 2%近い
米国とドイツについて足下の10年債利回りと比べても高い予想となっている。
タン氏は、先述の新興国市場株式の期待リターンの低さを株式リスクプレミアムで説明している。
株式リスクプレミアムは:
米国: 2%
新興国市場: -1%
株式リスクプレミアムとは、投資家が株式のリスクを取ることに対する報酬だ。
これが株価バリュエーションの伸長により縮小しているため、将来の期待リターンが下がってしまうという説明である。
特に新興国市場について同プレミアムがマイナスになっているのが目立つ。
新興国市場株式が特段割高と考える人は多くないように思うが、タン氏はそうは考えていないようだ。
一方、米国株については株価やバリュエーションが(少なくとも一部)割高と考える人が多い。
しかし、タン氏は逆に、米企業の収益力によって正当化されうるとも話している。
同氏は月初のポッドキャストで、米国株市場がめったにない好環境にあるとし、2026年の米国株をオーバーウェイトとしている。
一方、足下の高い株価が正当化されるにせよ、今後の長期リターンについては抑え気味の見通しとならざるをえないのだ。
もっとも、こうした予想については特に長期の場合、1つ注意が必要だ。
それは、多くの場合、予想値が現地通貨建てになっているということ。
新興国市場株式の期待リターンが低い場合でも、為替換算すれば違う景色になる可能性もある。
(次ページ: リスクプレミアム低下の意味)
