ふくおかFGの佐々木融氏が、最近の長期金利上昇について国債市場の「正常化」によるものと述べ、この先の金融政策選択による「当たり前」の帰結を予想している。
ソースは日本語なので原文を読まれることをお奨めするが、ここではいくつか興味を引いたポイントについて感慨を述べたい。
足元日本の10年債金利は2007年以来18年ぶりの1.97%まで上昇している。
マーケットでは高市早苗政権による積極財政を懸念して長期金利が上昇しているという見方もある。
たしかにそうした側面もあるだろうが、筆者は日本経済、そして日本国債市場が正常化してきているだけなのではないかと感じている。
佐々木氏がReutersへの寄稿で、昨今の日本の長期金利上昇の主因について語っている。
同氏は、政策金利が現在と同水準だった2007年を回顧し、長期金利も同水準にあったと指摘する。
政策金利と長期金利の差、つまり長短スプレッドで見て心配するようなことではなく、今後も日銀が利上げするなら長期金利が上昇して不思議ではないという。
だからこれは「正常化」の一端との主張だ。
一方、佐々木氏は2007年と異なる点も挙げている。
インフレ率であり、人々のインフレ期待だ。
実際、足下と同水準のインフレ率はバブル期まで遡らなければいけないし、その前となると1980年代初めまで遡る。
(余談になるが、2007年、日本のバブル期、1980年代初めのいずれもがその直後に大きな変化を迎えたことは何とも不気味だ。)
こうした現実の中で人々の基調的なインフレ期待が上方にシフトしたと見るのは自然なことだろう。
佐々木氏はこの変化を「正常化」の源泉であると示唆している。
人々がインフレ・リスクを感じれば、長期金利を構成するターム・プレミアムが拡大するのは理屈通りの話だ。
佐々木氏が長期金利上昇を破滅の予兆でなく「正常化」と見ていることは読者に安心感を与えるのではないか。
同氏は従前から超長期での趨勢的な円安を予想してきた。
こうした予想が暗示するのは国債売りと円売りであろう。
しかし、国債や円が売られるにせよ、それが「正常化」であるのなら、そのプロセスは破滅的というよりはある程度秩序だったものになるのかもしれない。
金利が上がれば国債を買う人が増えるし、円が下がれば円を買う人が増え、糸の切れた凧にはならないのではないか。
今回の佐々木氏のコラムにはそうした希望を感じさせるところがある。
それと関連し、このコラムにはもう1つ明るい部分がある。
「日本のインフレ率の上昇は人手不足が主因となっている可能性が高い。」
佐々木氏は、日本のインフレ進行の主因を労働市場の逼迫と見ている。
終末論を唱えるなら、円安、輸入物価上昇、そのホームメイド化というシナリオもありえ、こうした終末論はスパイラルな悪化を連想させる。
しかし、ここで佐々木氏はそれを「主因」と挙げていない。
円相場も国債も一本調子に売られるのではなく、循環的変動も残して推移していくとの考えなのではないか。
もっとも、労働市場の要因について佐々木氏は楽観しているわけではない。
「現在の人手不足は人口減少ではなく、労働時間の短縮が原因」であり、「人口減少が労働市場に影響してくるのはこれからだ」という。
(次ページ: 円相場へのインプリケーション)
