ブリッジウォーター・アソシエイツ創業者レイ・ダリオ氏が、いつものように陰鬱な未来を予想している。
「今世界を眺めている時、私たちは通貨というレンズを通して見ている。・・・
しかし、現実には通貨(の価値)は上下するものだ。」
ダリオ氏が経済フォーラムで、名目でなく(インフレ調整後の)実質ベースでモノを考えるべきと説いた。
同氏によれば、通貨ドルの価値が低下あるいは疑念を持たれつつある中、株や金が上昇するのも当然のなりゆきだという。
貨幣錯覚を取り除けば、現実がより正しく見えてくるのだろう。
ダリオ氏は、依然として金をポートフォリオに組み込むよう奨めている。
「金はポートフォリオにおいてとても優秀な分散子だ。
長期投資の資産配分の観点からすれば、金を15%程度配分するのが最適ミックスとなる。」
従前ダリオ氏は金を10-15%組み込むよう奨めてきた。
一方、15%を超えるのは(分散の観点からは)やりすぎとも言っていた。
今回は15%を奨めているが、同氏によればこれは通常の時期より高い構成比だという。
インフレ高止まりの懸念が高まっているとの認識によるものだろう。
ダリオ氏は金について、他の多くの金融資産と異なりクレジットに依存しない点を特徴に挙げている。
実物資産ならではの特徴だが、それだけに他の金融資産との間で分散効果を期待できるといいたいのだ。
ダリオ氏は、FRBが金融緩和を行うべきかとの問いについて、やや迷いを見せた。
社会には様々な部分があり、様々な人がいて、政策の効果に濃淡があるためだ。
「金融政策がうまく解決できるとは思わない。・・・
状況がよくなく、改善したいと思うなら、金融政策を用いるべきと感じる。
私たちはそれを今思い知らされている。
金融緩和の度に価格が上昇しみんな幸せになる。
でも、それにはコストも存在するんだ。」
ダリオ氏の口癖に「誰かの債務は誰かの資産」というものがある。
金融政策により人為的に金融環境を操作すれば、損をする人と得をする人が出て来る。
こうして生じるインバランスを「コスト」と考えているのだ。
同氏は現在の市場環境を端的に「バブルっぽい」(frothy)と断言している。
ダリオ氏は現状が1944年、1971年と似ていると指摘する。
いずれも通貨制度が崩壊した時期だ。
(ブレトンウッズ体制の始まりと終わりの年。)
同氏は、もはやかつて米国が主導してきた多国籍主義は戻らないと予想している。
1944年に至るには、その前に1930年代があった。
恐慌があり、金本位制離脱、大戦があった。
再び戦争になるのか、との問いに、ダリオ氏は「ありうる」と答えている。
世の中には「状況がどんどん悪化していく力学が存在」すると指摘。
回避には両者が歩み寄り公正に話し合うことが必要だが、「歴史によれば、そうならないことが多い」と話した。
(参考記事: 勝者は敗れ、敗者はひどく敗れる:レイ・ダリオ)
ダリオ氏がこうした陰鬱な予想を語りだした時、多くの人はまだ先に行き過ぎていると感じていたはずだ。
しかし、その後の数年、10年足らずで、現実はバッドエンドの方にどんどん吸い寄せられているように見える。
ダリオ氏は予想を述べる時「そうならないことを望む」と言い添えるが、決してハッピーエンドを決めつけられるような状況でもないようだ。