以前は株式公開買い付け(TOB)、とりわけMBO(経営者らによる自社の買収)が発表されると、よほど無理筋の主張か安い買付価格でない限り、すんなり進むことが多かったが、最近はそうでもないようだ。(9月26日 浜町SCI)
背景には、あまりにも安易で安価な非公開化が多いとの指摘もあるが、ここではそうした部分を除いて、TOB発表後の市場価格について投資家目線で頭の整理をしたい。
具体的には、TOB価格を超える市場価格の原因である。
TOBがかかった時、市場価格へのプレミアムがひどく小さい場合を除き、多くの人は漠然と《まあ成立するんだろうな》と思うのだろう。
TOBが成立することを前提にした場合、市場株価はTOB価格かそれよりわずかに下のところに収斂すると予想する人も多いだろう。
TOB価格よりわずかに下となりうるのは、TOBへの応募に時間と手間がかかるため、多少価格が低くても市場で売却してしまえと割り切る投資家が多いためだ。
実際、TOBに応募するには、買付代理人を務める証券会社で株式を保有しなければならない。
(それ以外の場合、まず移管しなければならない。)
応募せずにスクイーズアウトされる場合、現金化には余分に時間がかかり、確定申告が必要になったりする。
だから、多少TOB価格を下回ってもしかたないと考える投資家が多い。
しかし実際には、TOB発表後に市場価格がTOB価格を上回るケースは少なくない。
しかも、最近そういうケースが増えているように思える。
市場価格はなぜTOB価格を上回るのか。
TOB発表後当初《まあ成立するんだろうな》と思う投資家が多い場合、彼らが想定するシナリオは3つだ:
a) 当初の発表どおりスムーズにTOBが成立する: この場合、投資家が期待するのはTOB価格かやや下。
b) 対抗TOBがかかる: この場合、対抗TOBの価格は当初のTOBを有意に上回ると予想される。
c) (対抗TOBの有無にかかわらず)TOB成立のため当初の買付者がTOB価格を引き上げる。
a)しか想定されない場合、市場価格はTOB価格かそのすぐ下に収斂するが、b)またはc)まで想定される場合、TOB価格は当初のTOB価格を超えてくることになる。
後者が想定される場合とは例えば
- 当初TOB価格が安く見える
- 対象会社を買収したい他の買収者が存在する
- 株主が分散しており、価格にかかわらず応募する株主が少ない
などが挙げられる。
(次ページ: TOB価格を上回る市場株価は持続可能か?)