バウポスト・グループのセス・クラーマン氏が「安全域」の考え方を重視する理由を明かしている。
バリュー投資家として尊敬を集める同氏だが、メディア露出は極めて少なく、注目のインタビューとなっている。
安全域という考え方は、私にとってブレることのない規律だ。
安全域とは、単純に間違ってもよい余地を持っておけという考えだ。・・・
常にポートフォリオは下方のプロテクション、価値の実現のカタリスト、何が起こってもある程度のプロテクションになるものに集中して組んでいる。
クラーマン氏がゴールドマン・サックスによるインタビューで「安全域」の考え方の重要性を強調した。
同氏の言う「安全域」とは、単に割安に投資すればよいというものではない。
ヘッジ、現金、シニアの債務性資産、金利、プライベート投資などを組み合わせ、ポートフォリオとしての安全域を確保しているのだという。
レバレッジはかけず、資産クラス・国・産業での分散に努め、少数の投資先への集中投資も行わない。
バウポストのポートフォリオ構成は相当に分散されたものになっている:
- 公開株: 20%台前半
- 公開市場のクレジット: 20%程度
- プライベート投資(株式・クレジット): 22-24%
- 商業用不動産(プライベート): 10%台半ば
- ヘッジ: 数%
- 現金: 10%台前半
現状は、プライベート投資にやや注目しているという。
バウポストはボトムアップの投資プロセス(ミクロな銘柄選別によるポートフォリオ構築)を採用しているというが、このプロセスでもバランスは重要だと言う。
マクロな投資環境の状況に応じて、リスクテイクに匙加減を加えているという。
もちろんバリュー投資家だから、匙加減の方向は逆張り的なものになる。
クラーマン氏は、バリュー投資こそ「大失敗しないための完璧なルール」だと話す。
クラーマン氏がここまで保守的な運用にこだわるのには理由がある。
ある欧州のバリュー投資家の言葉を引いて、自身の信念を語っている。
『私は、顧客のお金の半分を失うより、顧客の半分を失う方を選ぶ。』
これが私のやりたいことなんだ。
一か八かの投資を行い、あわよくば高額な成功報酬にありつこうとするファンドも少なくない中、クラーマン氏の考えは受託者のモラルに溢れている。
顧客からの預かり資産を危険にさらすぐらいなら、自分が見限られた方がよいと考えているのだ。
クラーマン氏は、このやり方がバウポストの投資の成功にもつながったと考えている。
同氏は自社の差別化の1つに投資プロセスおける心理面の重視を挙げている。
先述の下方プロテクションの観点でも、ヘッドライトに照らされたシカのように呆然と立ち尽くすことのないようにする能力が重要だ。
何か不利なことが起こっても、追証を求められない、資金引出を被らない、予想外のことに動転しない能力こそ長期リターンを最も向上させてくれるはずだ。
もしも最も賢い競争相手が様子見をしたり、私の反対で売ったりしている時に、私が買うことができれば、素晴らしい買い場になるだろう。