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【Wonkish】ジェレミー・シーゲル教授がつぶやくコペルニクス的転換

ジェレミー・シーゲル教授とロバート・シラー教授がウォートン校で講演を行った。
その質疑の中で1つ興味深かった点を紹介しよう。


シーゲル教授は自身の講演の中で、近年シラーCAPEレシオが市場株価を割高と示しすぎていると論じ、そうなった要因を議論している。
2009年以降の長い上げ相場の中で、CAPEレシオが上昇したのに調整が起こらなかった点に注目した議論だ。

この点については以前からシラー教授も問題意識を持っていたようで、2020年にCAPEベースのイールドスプレットである「超過CAPE利回り」という考えを提案している。
CAPEの逆数から10年債実質利回り(実質リスクフリー金利の代用)を差し引いた数値である。
つまり、シラー教授は、CAPEレシオの有効性が低下した要因の1つに超低金利があると考えたのだろう。

一方のシーゲル教授が株価水準を見る時重視するのは予想PERだ。
予想PERの逆数が、株式の期待実質リターンをよく予想するとの考えだ。
ここから実質リスクフリー金利を差し引けば、株式リスクプレミアムが計算されるのだが、あまりそこまで分解して話すことはない。

この日シーゲル教授は、愛弟子ジェレミー・シュワルツ氏(ウィズダムツリー)から、株価評価モデルに金利の要素を明示的に入れるつもりはないかと尋ねられている。
そこで、教授は市場心理について興味深い感慨を述べている。

私は、リスク資本こそ基本的なものと考えるようになっている。
そして、債券がどれだけリスク資本に対するヘッジとして機能するかは、見舞われているショックの種類によるという考えだ。
多くの長期債の変動では、長期債のベータがプラスになったりマイナスになったりし、ヘッジとして有効になったり有効でなくなったりする。
インフレの時には有効だが、金融危機やパンデミックの時には有効でない。
それはシステムに加わるショックの種類ごとのウェイトにより、それがリスク資本のリターン率に対して長期債を動かしているのだ。

ファイナンスの世界にはCAPMという、現実には役に立たないが、燦然と輝く黄金律がある。
リスク資産の期待リターンは、リスクフリー金利にリスクプレミアムを加えたものという考え方のフレームワークだ。
この考え方の背景には、すべての資産の期待リターンの根底にはリスクフリー金利という共通項が流れているという見方がある。
だからこそ、債券以外の投資家も常に長期金利に注目しているのだ。

シーゲル教授が言っているのは、考え方の順序が逆なのではないかということ。
人々はリスク資産、とりわけ株式の方をむしろ基準として債券を見ているのではないかという問題提起である。

(次ページ: 債券は突如としてヘッジ能力を失った)


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