ブリッジウォーター・アソシエイツ創業者レイ・ダリオ氏が、世界が困惑するトランプ関税について、より大きな歴史の一部として捉えるよう促している。
より大きく重要な留意点とは、現在起こっているのが主要な金融・政治・地政学的な秩序の典型的な崩壊であるということだ。
ダリオ氏が自身のSNSで、トランプ関税の混乱を近視眼的にだけ捉えるべきでないと書いている。
これが大きな歴史の流れの一コマであり、過去にもたびたび繰り返していることであると強調している。
同氏は3つの秩序が崩壊しつつあると主張する: 金融/経済秩序、国内政治の秩序、国際的地政学的な世界秩序。
例えば、金融/経済秩序の崩壊は債務過多・急増により引き起こされ、債務者(米国など)と債権者(中国など)の不均衡が大きくなっているためと主張している。
不均衡を是正しようとする圧力が強まれば、金融秩序の大きな変化が逃れられないという。
ダリオ氏は、こうした変化が求められる理由を「自給自足を最重要とする種類の戦争に参入した結果」と指摘する。
債務と債権を生み出す経済活動をこう書いている。
「中国のような国が安くモノを作ってアメリカ人に販売し米国の債務性資産を手に入れ、アメリカ人は中国のような国からの借金で支払い莫大な債務負担を積み上げる、古い金融/経済秩序は変わらなければならない。
これら明らかに持続不可能な状況は、米国の中流階級の雇用を空洞化させ、米国が敵視を深める国から必要なモノを買わざるをえなくする、米製造業の悪化という現実のため、より持続不可能になっている。」
これまでの米中の関係を指した描写である。
興味深いのは、米中のこうした関係をダリオ氏が「持続不可能」と断言している点だ。
基軸通貨国が、モノを他国に売るのでなく、貨幣や債務を発行することで優雅に買物ができるのはある意味当然のことだ。
それこそが《法外な特権》と呼ばれるゆえんであり、米国は多大な恩恵を得ている。
結果、米国は貿易赤字となり、対外債務を積み上げることになる。
これも当然の成り行きだ。
基軸通貨が世界の通貨としての役割を果たすには、世界経済を引き締めないよう、常に貨幣・債務を増発することが求められる。
これもまた、貿易赤字によって実現されている。
ダリオ氏が言っているのは、単なる債務過多・急増ではない。
生産性などによる持続可能な増加を超える場合を「持続不可能」だと主張しているのである。
同氏は、現状が持続可能な領域を超えてしまっていると考えているのだ。
ちなみに、ダリオ氏は同様なことが歴史上繰り返されていると何度も書いている。
この繰り返しとは、基軸通貨国(≒覇権国)を変えて、似たサイクルが繰り返されたとの意味なのだろう。
つまり、米国中心の秩序はかなり危ういところに来ているとの思いなのだ。
今後何が起こるかについて、ダリオ氏はいくつか歴史上繰り返した「想像もできない」ことを列挙している。
- 政策: 敵国への債務返済の停止、資本流出を防ぐための資本規制、特別税
- 崩壊の形態: 不況、内線、世界大戦、その後に新たな秩序へ
(参考: レイ・ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』草稿についての記事)