オークツリー・キャピタルのハワード・マークス氏が、経済活動に対して政治が介入することの代償について4つの事例で説明している。
まずは結論を紹介しよう。
自由主義経済は完璧な解決法を提供するわけではないが、経済を強く制御しようとすれば、もっと悪くなる。
すべての人が望む解決法は存在しえないが、経済の法則は実現可能な最良の解決法に導いてくれる。
これが今回のマークス氏のMemoの結論である。
シカゴ学派らしい考え方であり、完璧な解決がないと認める至極現実的な考え方だ。
このMemoには主たる主張以外で2つ目をひく点がある。
1つ目は、マークス氏が編集アシスタントにAIを採用しているところ。
2,700字に及ぶ、近年のカリフォルニア州の保険制度の概要についてAIに代筆させている。
形式・強調を除いて直しが要らなかったというから、AI恐るべしだ。
(筆者を含め)凡庸な書き手は近いうち一掃されてしまうのではないか。
もう1つは、現在の米社会の重要な断層を垣間見る機会が与えられたこと。
冒頭の結論に向けて、マークスは4つの事例を議論している:
- 家賃制限: 財産権が制限され、新たな開発が行われなくなる。
- カリフォルニア州の火災保険: 規制により保険会社が消極的となり、住宅所有者が十分な火災保険を掛けられなくなっていた。そして山火事で燃えてしまった。
- 関税の功罪: いくつか必要な例外を認めつつ、一律関税は不合理、消費者に有害と指摘。
- 財政規律の弛緩: 政府財政・社会保障。
関税の議論などは、日本の円安誘導による政策とも共通したところがあり、勉強になる。
マークス氏はこれら議論の中で、ある時は民主党、ある時は共和党、ある時は超党派の政治家を批判している。
選挙で選ばれた政治家たちは現状が永遠に持続可能と信じているのか、いやもっとありそうなのは、問題が表面化する頃には引退していると信じているのだろう。
間違いなく、彼らは現実に向き合っていない。
財政赤字や社会保障制度の脆弱性に関する政治家の行動は、20階から飛び降りた男の寓話を思い出させる:
(落下中)10階を過ぎたところで男は言った:
『今のところ大丈夫だ。』
いずこも同じだ。
(次ページ: 米国例外主義の実相)