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金融政策レジーム変更の予兆:ジェレミー・シーゲル

FRBが超過準備への付利を始めたのは2008年10月、つまりリーマン危機後の量的緩和開始後だ。
市場に大量の資金を供給したため、何もしなければ少なくとも短期市場はじゃぶじゃぶの状態になる。
超過準備に付利をしない場合、余剰資金によりFF金利は低下してしまう。
政策金利の過度な低下を抑制するために準備預金への付利が行われた。
市中銀行は、一番安全なFRBに預けることで金利をもらえるため、それ以下の金利でインターバンク市場に資金を出す必要はなくなるのだ。


これが今FRBと米連邦政府を苦しめている。
FRBは低金利時代に莫大な長めの米国債等(多くが固定金利)を買い入れ保有している。
バランスシートの資産側に大量の米国債、負債側に準備預金が載っている。
利上げとともに超過準備への付利も引き上げたため大幅な逆ザヤになっている。
かつては黒字だったFRBは赤字に転落し、国庫への納付も滞っている。
クルーズ議員のアイデアは、この付利をなくせないかというものだ。

こうしたアイデアは2016年の早川英男氏の著作『金融政策の「誤解」』でもすでに予想されていた。
異次元緩和は莫大な貨幣発行をともなうため、発行とともに通貨発行益(シニョレッジ)が発生する。
(日銀は保有国債から金利を得る一方、超低金利時代、準備預金への付利の負担は小さかった。)
異次元緩和の目指すインフレが実現すれば、金融政策はある程度は正常化せざるをえなくなる。
その過程でシニョレッジの一部が巻き戻すことになり、これが利上げ後の日銀の財務を圧迫することになる。
早川氏は、これを避けるための手段として、預金準備率の引き上げの可能性に言及していた。
預金準備率を引き上げれば法定準備預金額が大きくなり、付利の対象となる超過準備を減らすことができる。
かつて行われた預金準備率の上下を一部復活させるようなアイデアと言えるだろう。

シーゲル教授によれば、クルーズ上院議員の言う通りに付利をやめれば、今後10年で1兆ドルどころか場合によっては2兆ドル近い節約になるという。
付利廃止が財政問題に対するアイデアとして語られ始めている。
教授は、この節約アイデアが金融政策のレジームを変えることになることから、今後の動向に注目すべきと話している。

米国の政策金利は利下げがあったにしても依然4.25-4.50%と相対的に高い水準にある。
日本の政策金利は利上げ中とは言えまだ0.50%と低いため、現時点で逆ザヤの問題は深刻化していない。
(もちろん今後もインフレ抑制のための利上げが続くなら話が変わってくる可能性がある。)

(次ページ: 付利をやめるとどうなるのか?)


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