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財政赤字と過大債務を混同するな:ケネス・ロゴフ

ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授が「反緊縮ポピュリズムの失敗」と題する論文を公表している。
長らく財政ポピュリズムと戦ってきた教授の真骨頂だ。


「歴史的に見て、ほとんどの債務・インフレ危機は、政府が負債に対し全額を負担できるにもかかわらず、そうせずにインフレやデフォルトを選択する時に発生してきた。
ひとたび政府がそうした非正統的手段に逃げ込もうとしているとの感を投資家や公衆が持つと、債務が過大になるはるか前から確信されるようになり、政策決定者の選択肢はほとんどなくなってしまう。」

ロゴフ教授がProject Syndicateで、財政悪化の本当の問題点を説明している。
財政の限界を予見するのは不可能とした上で、実際の限界よりはるかに手前で問題が顕在化してくるとの警告だ。

ロゴフ教授はかつてIMFチーフエコノミストなどを務め、2009年のカーメン・ラインハート教授(元世界銀行チーフエコノミスト)との共著『国家は破綻する』は殊に有名。
財政の持続性の重要性を説いたこの著書は、データの取り扱いの不備があったことが見つかり、それを材料に積極財政派から厳しい批判を浴びた。
ロゴフ教授らはデータの誤りを認め修正したが、修正後も本書の主たる主張は有効と主張している。
今回の論文でも「証拠は圧倒的」と書いている。

もっとも、今回ロゴフ教授が主張するまでもなく、現在少なくとも経済学を重視する人たちの中では「反緊縮財政運動」の分は良くない。
かつて一世を風靡した現代貨幣理論(MMT)も、現在では言及されることさえなくなった。
近年のインフレ・実質金利上昇によって「フリーランチ理論」が「危険な幻想」であることが明らかになり、「知的信頼性」が失われたためだ。

ロゴフ教授は、以前から危機時への財政対応を十分に行うことの重要性を主張してきた。
危機時に十分に財政を使えるよう、危機でない時には余裕を取り戻しておくべきとの主張だ。
それをしないと「財政の柔軟性の喪失」により、いざ必要となった時に十分な手当ができなくなってしまう。
さらに過去のデータから、債務対GDP比率の高い国で経済成長が緩慢になる傾向を指摘している。
教授は、区別して当たることが重要と述べている。

「多くの誤解は、しばしば積み上がった債務を(単年度の)財政赤字と混同するところに根があるようだ。
財政赤字は有効なツールであり、危機時には間違いなく必要だ。
受け継がれた大きな債務はほとんどすべての場合、経済成長の重しとなり、政府の政策手段の余地をなくしてしまう。」

知性あるコミュニティでは慢性的積極財政の危うさは認知されている。
しかし、政治的には、財政ポピュリズムが止む気配は全く感じられない。
そして、賢明なる投資家たちは、仮に必要でなくとも「インフレやデフォルト」が選択される気配を強く感じているようだ。


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