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米国の「デフォルト」の記憶:レイ・ダリオ

レイ・ダリオ氏が意図する大きな絵とは、具体的にはどのようなことなのか。
そのヒントが同日公表された4分あまりのビデオの中に見出せる。
このビデオの中で、ダリオ氏は米国の2度の「デフォルト」について回顧している。


ニクソン・ショックとニューディール下の金融政策である。
興味深いのは、これら「デフォルト」が美辞麗句によって飾られて呈示されるとダリオ氏が指摘しているところだ。
ニクソン・ショックにおけるレトリックを抜粋しよう。

もちろんニクソン大統領はそうは言わず、米国がデフォルトしたと明言せず、より外交的な言い方をした。
(ニクソン大統領)
『国家の通貨の強さは国家の経済の強さに基づき、米経済は世界でダントツに最強だ。
したがって、投機家からドルを守るために必要な行動を財務長官に指示した。
貨幣の安定や米国の最良の利益のために決める金額・条件を除いて、一次的にドルの金や他準備資産への兌換を停止するようコネリー長官に指示した。』

1971年8月15日の米ドルと金の兌換一時停止宣言であり、これにより戦後を支えたブレトン・ウッズ体制は終焉を迎えた。
米国はドルを金と交換する約束を反故にした。
もはやそれができない状況だった。
だから、ダリオ氏はこれを「デフォルト」と呼んでいるわけであり、一方的な契約不履行であるのだから妥当なワーディングだろう。
しかし、上述のニクソン大統領の宣言には通常デフォルトから想起される悲惨なニュアンスはあまり感じられない。
(こうした仮装は1933年のルーズベルト大統領の宣言でも用いられている。)

実はこうしたデフォルトは程度の差こそあれ多く起こっている。
日本において、ルールを変えて年金支給額や社会保険料を変更するのも、きつい言い方をすればデフォルトと言えなくもない。
国家が法律や規則で決めた金額を一方的に変更しているのだから。
《自国通貨建ての政府債務はデフォルトしない》などというレトリックがいかに表面的・欺瞞的であるかを示す例だ。

ダリオ氏の話に戻ると、このニクソン・ショックの話は同氏の十八番だ。
翌朝、暴落を予想した若きダリオ氏の前で、株式市場は25%近くも上昇して反応したのだ。
兌換停止により政府の財政政策の縛りが取り除かれたからだ。

(次ページ: 通貨切り下げが投資家を迷路に誘い込む)


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