さて、こうした議論の円相場へのインプリケーションは何だろう。
インフレやインフレ期待の正常化と円相場の関係だ。
この結論は理論通り、名目金利でなく実質金利が重要ということ。
2007年と名目金利が同水準だとしても、インフレ率は当時より3%程度も上昇している。
日本の実質金利は政策金利で大きなマイナス、長期金利でもゼロ近傍にある。
先進各国と比べ今でも異様なまでに低い水準にあり、円が売られるのはむしろ自然なこと。
だからこそ、日銀は利上げ路線を続けている。
佐々木氏は、インフレ期待の変化に合わせ政策金利が引き上げられると市場が見る場合、もう一段の長期金利上昇の可能性を指摘する。
一方、十分に引き上げられない場合、もう一段の円安の可能性があるという。
佐々木氏は最後に心配するシナリオに言及している。
奇しくも最近、特に米国の債券投資家が米市場について明確に意識し始めたシナリオの日本版になっている。
筆者が来年最も懸念するのは、日銀にイールドカーブ・コントロール(YCC)政策再導入のプレッシャーがかかることだ。
日米問わず、現政権は金融緩和を望んでいる。
FRBは量的引き締めを終了したばかり。
次のFRB議長はハト派となるのが確実視され、FF金利は下方向と見られている。
仮に来年以降、米経済・市場が風邪を引くようなら、FRBの新体制はFF金利だけでなく長めの金利も抑制しようとするかもしれない。
FF金利が高いうちには短期債を選好していた投資家も、利下げとともにデュレーションをやや長期化している。
長めの金利が抑制される場合のキャピタルゲインを狙ったものだ。
また、このシナリオは当然先行きのドルに対する弱気材料にもなりうる。
一方、日銀の総裁は、長期金利が「通常の市場の動きと異なるような形で急激に上昇する例外的な状況」に国債買い入れを増やす可能性を認めている。
かなり限定的な条件を挙げているが、何を通常以外と見るかについて明確な基準があるわけでもない。
日本においても、佐々木氏の「懸念する」ようなシナリオは起こりえよう。
問題は、インフレ環境が変化した後に国債市場を統制しようとした場合に何が起こるのかだ。
佐々木氏はこう予想している:
実体経済の変化に目を向けず、長期金利の上昇を『投機筋』のせいにして、日銀に国債購入の再増額、あるいは一定レベル以上への上昇を阻止する政策を再び導入させるようなことがあれば、円は大きく下落することになるだろう。
