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不思議と盛り上がる株式市場に死角はないか?

参院選や日米通商交渉の妥結について、米国で2つ興味深い反応があったので紹介しよう。


「まず、自動車メーカーにとって、これはいい取引だ。
・・・これが特に日本にとってよい主たる理由は、これにより日本の自動車メーカーが突如として米自動車メーカーより競争力を高めたからだ。
これは、トランプがやろうとしていることをダメにする。」

Bloombergで、アンカーのマーク・カドモア氏が興奮を抑えきれない様子でまくし立てた。
これまで2.5%だった税率に25%を付加して、交渉の結果、計15%で決着したことについて、何を言っているのかとあきれたくなる。
しかし、もう少し聞いてみると、真意がわかってくる。
同氏は、日本との決着が、関税率の「ニューノーマル」を15-20%に引き下げることを危惧しているようだ。

「みんな15-20%となるなら、相手国のメーカーは価格について競争力を必要としなくなる。」

アメリカ人は、15-20%の関税では国内生産の方が低コストにならないことを知っているのである。
だからこそ「解放の日」のような、途方もないばかげた税率が提示されたのだ。
それを踏まえ、カドモア氏はこう続けている。

「これが意味するのは(関税の)すべてのコストが消費者に転嫁されるということ。
その方が国内で作るよりまだ安い。」

カドモア氏は、米国への製造業の回帰が起こらず、関税を外国の輸出企業に転嫁することもできないと予想している。

「(関税は)米消費者が負担することになる。
これはただただ有害だ。」

なるほど、米国にとっても15%は譲歩だったのだな。
などと、騙されてはいけない。
そもそもほとんど関税のないところから、幅広い品目で15%が課されることになるのだから、日本の被害は大きい。
では、結局のところ誰が被害を受けているのか。

もちろん、日本の輸出企業が被害者であるのは間違いない。
しかし、一歩引いてみれば、この数年の円安は15%をゆうに超えている。
むろん製造原価も悪影響を受けているが、それでも吸収可能なのだろう。
だからこそ、1980年代の急激な円高時に聞かれたような悲鳴が産業界から聞こえてこないのだろう。

では、しわ寄せを受けるのは誰なのか。
結局は日米の消費者なのだろう。
新たな税を課税される米消費者と、円安とインフレに苦しみながら賃金が増えない日本の労働者/消費者だ。
特にネガティブ・サムの関税を課されれば、日本の輸出企業にしても賃金を引き上げるような状況ではなくなってしまう。

そんな悪材料が確定しても、日本の株式市場は活況だ。
1つには不透明感が払拭され、米株高との連れ高ということだろうが、少し奇妙な感もある。

参院選での与党の大敗について、シカゴ・マーカンタイル取引所を擁するCME Groupが、Bloombergで短いビデオを公表している。
同ビデオは大敗の要因について「右派ポピュリスト」の台頭を指摘している。
政治の不安定化が心配される中、選挙後やや円高に振れ、株価がほとんど反応しなかったことについて「これは妥当か?」と疑問を投げかけている。

おそらく株価が反応しなかったのは、円の動きがすぐに反転する可能性を見たのだろう。・・・
もっとも重要な教訓は、劇的な変化が通常、経済や外国人投資家のリスク選好にとって良くない示唆を与えるということであり、それは日本株に悪影響を及ぼす。
もちろん、これら変化はまだ初期段階であり、風向きの変化を十分に評価するまで何週間もかかるかもしれない。

日本株は、通商交渉の決着を受け、活況を呈している。
しかし、私たちはまだ政治の不安定化や関税が及ぼす現実の影響を受けていない。
現実の影響は、結果が定まったこれからやってくる。


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