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レイ・ダリオが匙を投げ、諦観に至ったワケ

レイ・ダリオ氏はこれまでしばしば「美しいデレバレッジ」の必要性を主張してきた。
美しいデレバレッジとは、債務問題に際して、インフレ的政策とデフレ的政策を組み合わせ、インフレにもデフレにもならないように注意しつつ問題を解消すべきとの意見である。
インフレ的政策とは金融緩和や財政出動であり、デフレ的政策とは債務リストラや緊縮財政だ。

ダリオ氏はこの美しいデレバレッジの例として何度も異次元緩和を紹介してきた。
日本はバブル直後もっぱらデフレ的政策を用いたため長いデフレに苦しむことになったと指摘。
その後、金融危機の対処を経て、異次元緩和以降の大規模マネタイゼーションによって、政府債務の実質ベースの価値を減らすことに成功したというものだ。
日本の金融緩和を最初から財政従属の枠組みで捉えた解釈である。

確かにデレバレッジではあったが、これを「美しい」デレバレッジと呼ぶべきかは異論もあろう。
何しろ、債務の減価には結局のところ大幅なインフレ(あるいは円安)が必要だ。
ダリオ氏の立ち位置から見れば「美しい」のかもしれないが、当事者にとっては真逆であり、それは私たちが毎日のように目にしている風景でもある。
日本は今や、かつてリフレ政策が目論んだユートピアに変貌した。
かつての《インフレが問題を解決してくれる》といったセールストークとは裏腹に、現在の日本の最大の社会問題の1つはインフレとなっている。

ダリオ氏が匙を投げた米国はどうなるのか?
いつか冷水を浴びせられ、インフレ的政策だけでなく、デフレ的政策も取り入れるようになるのだろう。
そして、その直前、2022年以降の日本のような状況を経験するのではないか。
つまり、歴史的にも高止まりしているドル相場が下落し、国内需給など関係のないところでインフレが昂進するのではないか。
そう思うなら、ドルで見たインフレへの備えは今後も必要であり、そう思う人が多いからこそ金相場が高止まりしているのだろう。

日本の問題もまったく改善していない。
選挙では与野党揃って拡張的財政政策で競い合っている。
日銀は正常化に向けて頑張っているが、それでも日本のインフレは先進国一高く、政策金利は中立金利にも届いていない。
私たちが恐れるべきは、中長期での円安ドル安であろう。


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