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【短信】ファストフード値上がりの本質

最近米社会でインフレ下での外食産業のあり方が注目を集めているようだ。


先週BloombergとCNBCが相次いでファストフード業界に関する短編ビデオを公表していた。
もはやお手頃価格でなくなったファストフード業界で起こる変化を解説したものだ。
いずれもマクドナルドの業績開示におけるCEOの発言を紹介するなど、共通点も多い。

Bloombergの方が数日早く公開されたのだが、CNBCの方から紹介しよう。
CNBCのビデオタイトルは「なぜファストフードはこんなに高くなったのか」。
タイトルどおり、販売価格に重点が置かれている。

ビデオによれば、ファストフードが属するCPIの品目「限定的サービスの外食・軽食」における2019-23年の上昇率は27.76%だという。
これが「フルサービスの外食」の23.78%、全体の19.18%より高いというのがビデオの問題意識だ。
なぜかと言えば、読者の多くが想像するとおり、サービス分野での賃金上昇が効いている。
事業者はコスト増を価格転嫁しているが、売上は増えても量(来店頻度)は増えないのだという。
ビデオでは、マクドナルドの第1四半期が利益予想を下回った点を紹介し、CEOがお手頃感(affordability)を重視すると述べた音声を聞かせている。

CNBCのビデオは、そのタイトルに対して極めて忠実に作られているという印象。
ある意味CNBCらしいとも感じられ、もしかしたら不要の軋轢を避けたかったのかもしれない。
そう思うほど、やや消化不良の面があった。
この議論の登場人物は労働者(賃金)、顧客(売上)が主で、企業や株主(利益)の視点がかなり希薄だ。
さらに、数字は出すが定量的な議論はあまり加えられていない。

一方、Bloombergのビデオの語り部はBloomberg Opinionのコラムニスト ニア・ケイサー氏。
資産運用会社の創業者・経営者だそうで、要は社外の人物。
実にのびのびと言いたいことを述べている。
タイトルは「なぜマクドナルドは現在こうも高いのか?」である。
マクドナルドがセクター代表としてサンドバックになっている。

ケイサー氏は、今やハンバーガー店に行けるかどうかが貧富の差の象徴になったと主張する。
マクドナルドが、年間所得45千ドル(675万円)未満の顧客層を「低所得顧客」と呼び、この層(世帯の約30%、人口の約1/3)が離れていっていると述べた話を紹介している。
ケイサー氏からすれば、バーガー店に行けない約1/3が「貧」というわけだ。

さて、見どころはここから。
ケイサー氏は「なぜマクドナルドはアメリカ人の1/3を見捨てるのか?」と問題提起し、すかさず「もっと儲かるだろうからだ」と答える。
(2015年以降の)粗利率、EBITDAマージン、当期利益率と詰めていき、いかに会社・株主が潤ってきたかを示している。
Bloomberg視聴者に対して、会社・株主というステイクホルダーの取り分を議論する勇気は立派だ。

「(規模と利益率両方の拡大を)マクドナルドは、貧しい顧客で失うより金持ちの顧客にもっと売ることで実現している。
これはマクドナルドだけではない。」

運用会社経営者とは思えないような意見を述べた後、同社の労働分配についても触れるなど、チクチクチクチクねちっこい。
その一方で、この問題が一私企業によって解決できるものでもないとし、いくつか選択肢を紹介している。


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