債券王ビル・グロスがFTに金融政策について寄稿した。
量的緩和やマイナス金利は有害だとし、日本は財政の持続可能性を保つための名目成長率を実現できていないと指摘した。
「汚れたガソリンと人為的に値付けされた金融市場が一般化している。
どちらもエンジンを壊しかねない。
(後者の)中央銀行の場合は、実体経済の原動力をリスクにさらしている。」
危機感のにじむグロス氏の訴えは、経済人の悲痛な叫びであり、市場参加者の焦りであり、大物投資家のポジション・トークであろう。
以前は債券利回りの低下は有効に経済を刺激していた。
2009年からFRBが始めたQEも効果を発揮したかに見えた。
しかし、そうした見方に今、疑問が投げかけられている。
「ゼロ近傍の金利や世界に13兆ドルもあるマイナス利回りの債券は、本当に経済にいいものか?
最近のデータは、そうでないことを示唆している。」
グロス氏は生産性が伸び悩んでいる点を挙げ、この現象が量的緩和やゼロ金利とともに起こった点を指摘している。
さらに、これら政策のメリットと思われてきた点はますます輝きを失っている。
- 生産性向上に必要な投資が奮わず、余剰キャッシュは株主還元に向かっている。
つまり、実体経済に向かってほしいものが金融経済に滞留してしまっている。
企業は、低金利が意味する実体経済の先行きを理解しており、今は低金利でも将来金利が正常化するのに身構えている。 - ゼロ金利は保険・年金などの事業モデルも破壊してしまった。
これは、首切り、保険料上昇、給付減額などを通して実体経済を傷つける。
グロス氏は日本を例に、量的緩和やマイナス金利がほとんど実質成長もインフレも生んでいないといい、借金にまみれた日本の状況を表現する。
「国債利回りが正常化する段階で歴史的な債務を返済するのに必要な名目GDP成長率(実質成長+インフレ)が不足している。」
と金融政策が、財政の持続可能性と密接に関連している点を示唆している。
グロス氏は、各国が現状の金融緩和策を続ければ「停滞と衰退の悪しきサイクル」に陥りかねないと警告する。
各国中央銀行は認めたがらないだろうが、「さらなる量的緩和強化や金利引き下げをすれば、世界経済のエンジンは加速するどころか破壊されてしまう」とし、金融政策のロジックを変えるべきと主張している。