海外経済 投資 政治

バイサイドとセルサイドで割れるモルガン・スタンレー

米市場が史上最高値を試し続ける中、米モルガン・スタンレーの発信のトーンの多様性が少々高まっている。

まずはセルサイドのマイク・ウィルソン氏:

8月は企業利益について調整が行われる期間となるだろうが、それは一時的なものだ。
第4四半期から2026年にかけて企業の利益は再加速すると考えている。

ウィルソン氏がCNBCで、米市場について強気の見通しを語った。
このシナリオは同氏が年初から一貫して主張してきたもの。
新政権スタート時には経済にマイナスとなりうる政策が採られ、年央以降にはプロ・ビジネスの政策が実施されるとの読みだった。
近年苦労した時期もあったが、今年のウィルソン氏は当たっている。

ウィルソン氏も発言中に明示しているとおり、通常セルサイドの予想のホライズンは特に断らない限り3-12か月、長くて18か月といったところ。
彼らの顧客は気が短い。
ところが同じ投資銀行でもバイサイドとなるとホライズンが長い顧客も多い。
当然、相場へのスタンス・表現も違ってくる。
モルガン・スタンレー資産運用部門のリサ・シャレット氏が自社ポッドキャストで語ったトーンは少し違った響きを持っている:

「確かにS&P 500はモルガン・スタンレーの6,500目標に向けてまだ上昇余地があるのかもしれない。・・・
と言いつつも、私たちの2026年の強気相場への熱意はいまだ抑制的だ。
まず、債券市場との断絶がある。
株式が関税によるインフレの脅威を見ていないのに対し、債券市場はまだ貿易税をリスクと捉えている。」

シャレット氏は、政策の不確実性と小さな株式リスクプレミアムを理由にあげ、債券市場の見方を支持し、株式については銘柄選択が重要とのスタンスを続けている:

  • テック、金融、工業、エネルギー、政策の恩恵を受ける一部ヘルスケアにおいて、業績の上方修正が見込める銘柄を選別
  • 過熱感のある分野を避け、外国株、コモディティ、エネルギー、インフラ、ヘッジファンドの分散ポートフォリオで補完

さて、ウィルソン氏が関税について興味深い本音を語っている。
同氏は、トランプ関税が「10%の消費税、ある種の付加価値税のようなものになる」と話している。
この税は輸出者・輸入者・消費者の3者により「まあ公平に」負担されることになるのだという。
ウィルソン氏は強気スタンスだが、手放しの強気というわけでもないようだ。

「最終的に米国が10%の税を輸入から徴収できれば、年4,000億ドルになる。
これは現実の税収だ。
これが目的であり、歳入の源泉なんだ。・・・
産業界はこれを理解しており、だからこそ市場は陶酔せず、それが今の価格なんだ。」

そもそも「解放の日」のアナウンスから、トランプ関税の目的ははっきりしなかった。
不公正な通商慣行の是正なのか、それとも単に米貿易赤字の縮小なのか。
サービス収支には目をつぶり、最近ではレアアース、不法移民、フェンタニル、ロシア・・・と何でもあり。
その論理はカツアゲのレベルであり、まさに理念なき関税だ。
すべての関税交渉に共通しているものとすれば、確かにそれは税収しかない。

消費税の怖さを知っている国の市民からすると少々楽観的すぎるように感じられるが、どうだろう。

(余談になるが、筆者は投資銀行からの発信に多様性が見られることを批判するつもりは毛頭ない。
むしろ、優れた人材が無理に社内で統一することなく意見を発信することは、一流の投資銀行の1つの側面であると考えている。)


-海外経済, 投資, 政治
-, ,

執筆:

記事またはコラムは、筆者の個人的見解に基づくものです。記事またはコラムに書かれた情報は、商用目的ではありません。記事またはコラムは投資勧誘を行うためのものではなく、投資の意思決定のために使うのには適しません。記事またはコラムは参考情報を提供することを目的としており、財務・税務・法務等のアドバイスを行うものではありません。浜町SCIは一定の信頼性を維持するための合理的な範囲で努力していますが、完全なものではありません。 本文中に《》で囲んだ部分がありますが、これは引用ではなく強調のためのものです。 本サイトでは、オンライン書店などのアフィリエイト・リンクを含むページがあります。 その他利用規約をご覧ください。