2008年9月、市場は「メルトダウン」し、名だたる老舗金融機関が破綻状態に陥り、「金融システムの終焉」が囁かれた。
市場には買い方がほとんどいない状況で、さらに下がるとの見方が大勢だった。
そこでハワード・マークス氏は決断した。
私たちは極めて単純な結論を下した。
投資をして、世界がメルトダウンするなら、(投資が失敗しても)どうでもいいことだ。
しかし、投資をせずに、世界がメルトダウンしないなら、私たちは使命を果たさないことになる。
マークス氏と共同創業者ブルース・カーシュ氏はその後の15週間で週平均450百万ドル(今のレートで約660億円)を投資したという。
これは株式投資ではない。
ディストレス投資だ。
週に660億円のディストレス債権を積み上げるのはさぞかし恐ろしい仕事だったろう。
マークス氏はこの時の判断を投資人生で「最も誇りとする瞬間」だと話した。
同氏が投資人生でわずか5回しか語っていないマーケット・タイミング予想の2つである。
(5回とは2000年1月、2004年末から2007年半ば、2008年末、2012年3月、2020年3月。)
なお、この話の前にマークス氏は最大の逆境を尋ねられている。
その質問への答えは、リーマン危機後のゼロ金利の時代だった。
(失敗したという話ではなく、つらい金融環境だったという話。)
まさに、人生万事塞翁が馬、といったところだろうか。
マークスが6回目の予想を語る時が来るだろうか。
次の予想はかなり難しいものになるかもしれない。
マークス氏がこれまで発信し的中させた5回の予想はいずれも資産デフレのプロセスにかかわるものだった。
つまり、株価などの資産価格の下落やそこからの反転についての予想だった。
しかし、次の大きな転換点がデフレ的であるとは限らない。
今後のスタグフレーションの可能性については依然として両方の見方が存在する。
次の資産価格がデフレ的(名目価格の下落)ではなく、インフレ的(名目価格は下がらず、実質ベースで減価する)である場合、風景は大きく異なってくる。
(マークス氏が株式の世界から去るきっかけとなったニフティフィフティ・バブル崩壊の時と似て)たとえリスク資産の価値が下落しても、名目価格はさほど下げないこともありうるのかもしれない。
もしもそうなるなら、価格の下落を恐れて現預金や名目債に逃げ込む意味は小さくなる、あるいはなくなる。
こんな勘繰りもまた現在の不気味なリスク資産上昇を支えているのかもしれない。