ハワード・マークス氏は、年金基金が相対評価(他の年金基金との比較)ではなく絶対評価(約束の給付の実現の可否)を重視する姿勢に同意している。
一方で、ゴルフのように相対評価することも重要とも言っている。
「皮肉なことに、短期または中期でのパフォーマンス計測の適切な標準とは絶対的なものでなく相対的なものでなければならない。
短期的には、その期間の環境で合理的に達成されうるパフォーマンスに照らしてパフォーマンスを評価するしかない。」
年金基金の投資期間は長い。
絶対評価で評価したければ、40年以上経ってからパフォーマンスを評価する必要があるが、40年経ってしまった後で《やっぱりダメでした》ではまさに後の祭りだ。
これが長期パフォーマンス評価の欠点だ。
だから中期的にも評価しなければいけないが、基金が人間の集合である以上、単年の評価も必要なのだろう。
そこで用いられるのはベンチマーク(またはルールに基づく分散投資を行った場合の政策ポートフォリオのパフォーマンス)になる。
(これこそ年金基金に限らず、機関投資家がパフォーマンス評価にベンチマークを用いる苦しい理由だ。)
ところが、こうした短期パフォーマンス評価は(最初の引用で示されているとおり)有用とは言えない。
相場が悪かったから年金が払えないでは、確定給付年金としては失格だ。
マークス氏は、欠陥のない評価方法はないと指摘した上で、評価の期間について重要な指摘をしている。
適切なパフォーマンス評価の期間は、良い時と悪い時の両方を含まなければならない。
言い換えると、市場サイクル全体を通して行わないといけない。
投資家には謙虚な姿勢が重要だ。
過去十数年、全体として上げ相場が続いてきた中でリスクを取って儲かったからといって思い上がってはいけない。
投資の世界には多くの一発屋がいるのも事実だからだ。
まさに臨終の床についているのでもないかぎり、投資家の投資期間はまだ数十年続くかもしれない。
優れた投資家とは、そうした終わりのわからない長い投資期間を通して勝つところにあるのだろう。
個人投資家はこのMemoから何を考えればいいだろう。
マークス氏が言うには、リスクの所在は投資対象より投資家の側にあるという。
これは、1つ具体的には、ある程度その投資のエンドゲームを想定しろということではないか。
この資産が何か月後、何年後、何十年後にどのように取り崩され支出されていくか、これをおぼろげながら意識することではないか。
(その点で、個人投資家の置かれた状況には年金基金と似たところがある。)
そうすれば、自身がどのようなリスク指標を見るべきかのヒントになることだろう。
