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ドル安・実質金利低下に賭け続けろ:レイ・ダリオ

ブリッジウォーター・アソシエイツ創業者レイ・ダリオ氏は、将来の災難が避けられないと見て、ドル安に備えるよう説いている。


ドナルド・トランプとジェローム・パウエルの間の論争は、貨幣の価値に関わることだ。
以前説明したとおり、過大な債務・借金が存在しており、これへの典型的な対処策は実質金利を押し下げ貨幣の価値を減価させることだ。
これは債権者にとっては悪いことだが、債務者にとってはよいことになる。
これこそドナルド・トランプが推し進めていることであり、ジェローム・パウエルが防ごうとしていることだ。

ダリオ氏がSNSへの投稿で、トランプ大統領によるパウエルFRB議長への再三のプレッシャーについてコメントした。
同氏の目には、この論争が短期的な景気刺激策に関わるものでなく、より長いホライズンをともなう超長期債務サイクルの終期の一シーンに移っているのだ。

政府は長い年月をかけ、債務を膨らます傾向にあり、いつかそれに限界が訪れる。
通常の財政再建(歳出削減と増税)が政治的に困難であったり、それだけでは再建が不可能になると、もう1つの手段を併用せざるをえなくなる。
実質金利引き下げによるリフレである。
金利を抑制し、あえてインフレを昂進させることで、政府の債務の実質的価値を減らそうという金融抑圧だ。

ダリオ氏に言わせれば、これこそトランプ大統領が金融緩和を強く求める1つの理由だということになる。
(もちろん、選挙に向けた一時的な景気浮遊もまた理由であろう。)
一方、パウエル議長は、物価の番人たる中央銀行の長だ。
米景気がまだ底堅く、インフレ要因が払拭されない中で、そうそう利下げも進めにくい。
上記の債務問題への処方箋の大前提となるのは、通常の財政再建策とリフレによってダリオ氏の言う「美しいレバレッジ」(デフレ圧力とインフレ圧力を拮抗させ緩やかに債務の価値を低下させていくこと)が実現されることだろう。

特にこの半年あまりダリオ氏は必要条件となる通常の財政再建(歳出削減と増税)の実現を熱心にワシントンの政治家に働きかけてきた。
しかし、米政治は反対方向を向いていた。
理由は単純だ。
選挙民の支持が得られないためだ。
この結果を見てダリオ氏は《世直しモード》から《生き残りモード》に行動を変化させた。

「貨幣の価値は守られるのか?
歴史の教訓や最近の見聞から判断すると、典型的な弱い貨幣やインフレの問題がひどくなるまで、貨幣の価値が守られないことは明らかだ。
おそらく、そうなっても守られないだろう。
これら問題が生み出す苦痛が強すぎるためだ。」

ダリオ氏は、1970-82年を思い出すよう促している。
1960年代にタネがまかれ始め、1970年代に昂進したインフレは、状況が本当に悲惨になるまで放置された。
インフレの痛みが強すぎるために、インフレ対策という名のインフレを助長する政策さえ選択されかねない。
同氏は、今回も切羽詰まるまで問題が放置されると予想しているのだ。

《生き残りモード》に入ったダリオ氏は、災難をどう防ぐかではなく、災難が起こるのに備えてどう行動(投資)すべきかに主張の主眼を移している。
「貨幣の価値を守ることは難しいが重要」と書きながらも、この投稿の結論は善後策に移っている。

だから、私には貨幣が弱くなる(つまりドル安と実質金利低下)に賭け続けるべきであるように思う。

もちろん、このロジックは日本にも同様に、あるいは米国以上に当てはまる。
インフレに対し金融引き締めが十分でないためにインフレが上昇し、さらに実質金利が低下し、債券そして貨幣が売られてしまう。
仮にそう思うなら、賭けるべきは円安・ドル安であろう。


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