さて、これからが本題だ。
《バリュエーション学長》は価値評価に必要・重要な各種データを継続的に計算・公表している。
これまでFPで紹介・引用した例には
各国のリスクフリー金利
各国の株式リスクプレミアム
米国(S&P 500)の期待リターン
世界の上場会社約48,000社の財務分析
などがあり、前2つの数字からは各国の株式市場の資本コストが計算されることになるので、投資家必見のデータなのである。
しかも、教授はこれらをかなり理論に忠実に算出している。
今回、米ソブリン格付けがトリプルA格から引き下げとなった。
これは、米国債がリスクフリーとは言えなくなったこと(次回その根拠を紹介する予定)を意味する。
つまり、米国債利回りがリスクフリー金利とは言えなくなったのだ。
これは、ダモダラン教授のデータ計算に大きなインパクトとなった。
なぜなら、教授はリスクフリー国の基準として米国を用いていたからだ。
各国市場間に十分な裁定が働いていると仮定し、米国のリスクフリー金利と株式リスクプレミアムが他のリスクフリー国にも当てはまるとしていた。
さらに、リスクフリーでない国については、格付けに基づき差分を算入していた。
ところが、米国がリスクフリーでなくなったことで、この計算スキームを見直さざるをえなくなってしまったのである。
まず、リスクフリーの基準を米国でなく、トリプルA格の国々に変更するということ。
さらに、米国については普通の国になったことにともない
- リスクフリー金利: 米国債利回りから米国のデフォルト・スプレッドを差し引く
- 株式の期待リターン: 株価と期待CFから計算しているので不変
- 株式リスクプレミアム: 差し引きの結果、デフォルト・スプレッドの分大きくなる
と変更された。
具体的には、米10年債利回り4.41%、Aa1格のデフォルトスプレッド0.40%とした場合、米リスクフリー金利は4.01%と計算される。
上述のとおり、株式の期待リターンは変わらず、リスクプレミアムが大きくなる。
よって、この変更は高リスク(高ベータ)の銘柄で期待リターン=資本コストを大きくし、低リスク(低ベータ)で小さくする。
もっとも、その差は(他の多くの誤差を勘案すれば)大きなものではない。
この点は諸外国の市場での計算に及ぼす影響についてもあてはまる。
ダモダラン教授は、実務上の一般的な取り扱い:
- リスクフリー金利: 10年債利回りで代用
- 株式リスクプレミアム: 期待リターンと10年債利回りの差
は、今後も十分機能すると結論している。
もっとも、これは高格付の国に言えることで、格付の低い国では10年債利回りがリスクフリー金利として使えないことも認識しておくべきだろう。