こういう急落シナリオには反論も多い。
投資家には、とことん強気派を通したい人も多い。
強気派の反論
最近、気になる強気派の議論がある。
みんなが心配している、あるいはボラティリティが高い(オプションによるヘッジとの推測)との指摘だ。
市場参加者が心配しているから過熱感はない、というのである。
筆者はこうした議論にはあまり賛成できない。
1980年代後半、バブルが膨張する中、それを心配する人がたくさんいたように記憶しているからだ。
筆者が貧乏学生だったせいかもしれないが、筆者の当時の知り合いには《バブルで踊る》人はむしろ少なかった。
土地や株で儲けている人たちに、むしろ呆れている人たちが多かった。
それでもバブルは膨張し、そして弾けた。
ロバート・シラー教授が米市場のバリュエーションの高低の指標として提案するシラーCAPEレシオは39.4倍と、2000年ITバブル期に次いで史上2番目の高さまで上昇している。
ロバート・シラー教授によるシラーCAPEレシオ

CAPEレシオには市場変動を予見する力はないとされているが、それでも米市場が高い水準にあることは事実だろう。
CAPEが高くなる要因には例えば
- 足下EPSが企業業績の循環的な観点から見て高水準
- EPSに対して株価が高くなっている
もちろん、これらにはいずれも(業容や金融環境面の)理由があるのも事実。
しかし、歴史を振り返れば、上昇したCAPEはその後下落してきた。
どこまで上がるかはわからないが、後に下落してきたのだ。
今後二度と過去に戻らないと信じるのでなければ、EPSまたはPERが今後下げる可能性が高まっている、ということだ。
シラー教授が2017年の時点で興味深い話をしていた。
当時のCAPEレシオは30.4倍と今よりは低かったが、それでも史上3番目の高さだった。
教授は、まだ上昇する可能性もあるとしつつも、当時の米市場環境について「健全とは思わない」とし、国際分散を奨めていた。
つまり、強気相場の継続の可能性を認めつつ、心配していたのだ。
ここで話を市場参加者の心配と過熱感の話に戻そう。
シラー教授は、数字だけでなく、過去の新聞・雑誌・記録などの資料も用いて行動ファイナンス分野の研究をしてきた。
その教授が1929年の市場の雰囲気を紹介している。
「1929年に遡ると、市場の狂気に対する緊張感で溢れていた。
ほとんどの新聞記事は『心配するな、すべて大丈夫だ』と書いていた。
どうしてそんな記事が書かれたかと言えば、みんなが心配していたからだ。」
《みんなが心配しているから相場が上がらない》とは限らないのと同様、《みんなが心配しているから相場は崩れない》とは限らない。
(次ページ: シナリオ3)インフレ時代の市場の足踏み)
