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ブル 【輪郭】2026年 3つのシナリオ

政府によるデフォルトの意味を拡大解釈すれば、実は広義のデフォルトはすでに進んでいる。


財政健全化の3法

最近のFPの記事で、レイ・ダリオ氏が政府の財政問題の解決手段を3つに分類していた:
増税、歳出削減、インフレの3つだ。
これらが何を意味するのか、少し幅広に見直してみよう。

  • 増税: 課税対象の拡大、税率の引き上げ、社会保険料の引き上げ、社会サービス(水道、役所の手続き、・・・)の対価の引き上げ・・・
  • 歳出削減: 年金や給付金の削減、社会サービス(ゴミの収集、水道水の質、警察・消防・防衛、・・・)の質・量の低下・・・
  • インフレ: 物価上昇、インフレによる税額の増加、・・・

ダリオ氏の主張は、前2つの実施が難しいなら、インフレによる実質債務圧縮に頼らざるをえなくなるというものだった。

このいずれの手段も金融債務のデフォルトではない。
しかし、乱暴に拡大解釈するなら、政府による債務・負担のデフォルト(不履行)と言える。
政府による約束であるはずの法律・規則・慣例が反故にされ、国民に不利益な変更がなされてきたからだ。
(もちろん、国民に利益となる変更もなされてきたが、これがまた公平性という面で別の問題を生みがちだ。)
増税がやりにいために社会保険料が引き上げられるのは、これまで経験してきた通り。
年金はインフレほどには増額されず、ゴミ収集が有料化されたり、公共サービスの質・量が低下するなども然り。
税金の計算でも、インフレが進んだからといって控除の基準値がそれを反映するのは遅く、投資においても取得原価がマークアップされることがない。

《国債はデフォルトしない》などという話には何の本質もないのである。

インフレ的政策は止まらない

これが、先進各国をはじめとする世界の現状である。
それでも拡張的な金融・財政政策を求める声は尽きない。

インフレが最大の経済問題とされている国は多い。
それでもまだ《デフレ》、《デフレ的》、《デフレを完全に脱していない》などと口にする政治家が多いことは本当に危険だ。
少なくとも本質を正しく伝える観点から言えば落第だ。
また《インフレ対策》という名目でインフレを助長する政策が大規模に行われるのも大問題だ。
一歩間違えれば、火事を消すと言ってガソリンを注ぐようなことになりかねない。

こうした奇妙な論理が世間ではびこっている。
インフレが何年も2%を大きく上回っているのに、拡張的政策が強く望まれる。
無知ゆえのことなのか、困窮のあまり無理を承知で主張しているのか、はたまた政治家の勝手な都合によるものか。
あるいは、政府は財政健全化を(増税・歳出削減でなく)インフレで実現しようと決意を固めているのか。
政治的意見は別として、インフレのタネは尽きない。

一方で、AIなど生産性上昇をもたらしうる技術革新はデフレ的な効果を有する。
それは、産業革命以降常に起こってきたことだ。
だから物価が落ち着いてくれるはずだ、と期待したくなる。
しかし、同時にインフレ的な政策が乱発されている。
結果、将来がディスインフレなのか、インフレなのか、読みにくい。

「通貨危機」と「債務危機」の意味、再び

もしも積極財政が採用され、それを金融緩和が支え、その状態が長く続くなら、それが意味するのは名目政府債務の膨張、円(政府債務または通貨)の膨張であり、インフレや通貨安が意識されることになる。
こういうシナリオで起こりうるのが「通貨危機」だ。
「危機」というほど大幅な変化になるかどうかはわからないが、インフレ高止まり・昂進、円安を心配することになる。
これは公共部門の債務増大によるイベントである。

最近のトピックで言えば、量的引き締めを止めたばかりのFRBがTB買入れを開始したことは注目に値する。
米政府は(理由は明かさないが、おそらく利払い費低減のため)資金調達を短期化している。
かつては《長短での資金調達+長期債買入れ》だったが、それに代わるマネタイゼーションのための代替スキームが出来上がったようにも見える。
短期の政府債務をFRBが(流動性供給のためとは言え)買い入れることは、貨幣膨張やインフレ再発を想起させる。

一方、先述の「債務危機」はいつ起こるのか。
それは、政府部門ではなく民間部門で債務が膨張した時に心配されてくる。

最近、AIインフラへの投資について市場で心配されることがあった。
ハイパースケーラー等によるデータセンター投資が供給過剰な水準にあるのではないかとの心配だった。
大金持ち企業の投資に対しなぜあれほど心配されたのかには理由があるのだと思う。
それまで「バランスシート非不況」が実現していた時には、民間の債務に系統的な心配はほとんどなかった。
全体で見れば民間の債務は問題ではなく、むしろ民間の信用創造が進まないことがマイナスと取られる面もあった。
それが、AIへの過剰投資の可能性が語られるようになり、過去16年間で初めて、民間側での債務膨張が心配されたのだ。
これが「債務危機」、つまりバブルと崩壊を心配させたのだと思う。

つまり、

政府部門の債務なら「通貨危機」でインフレ・通貨安
民間部門の債務なら「債務危機」でデフレ

とイメージできるわけだ。

(次ページ: シナリオ2)ブーム&バスト)


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