ショートセラー ジム・チャノス氏がビットコイン保有を明かしている。
同氏らしくないと思われがちだが、背景には納得の理由があった。
私がみんなに言ってきたのは、強気相場が約束に対してプレミアムを乗せる傾向があるということ。
弱気相場は現実で割り引くんだ。
今は目盛りが最大値に戻っており、少なくともいくつかの分野・企業・投資家が大きなプレミアムを乗せている。
チェノス氏がCNBCで、株式市場の一部に過大な約束への期待が織り込まれていると警告した。
チャノス氏は、業績を糊塗していたエンロンの不正を暴き、空売りで名を上げた投資家。
長く、不正に手を染める企業の株式をショートしてきた。
現在はファミリーオフィスで投資を続けるかたわら、複数の大学で投資詐欺の講義を受け持っている。
チャノス氏が向き合う分野は不正や詐欺だけではない。
企業経営者が自社をひどく過大に語り、市場がそれを受け入れる時にも、同氏のショートが始まる。
そのチャノス氏がビットコインを保有しているという。
第一印象として逆なのではないかと思うだろう。
しかし、ビットコインをロングしているのが事実なのだ。
もちろん種がある。
ロング/ショート戦略の中のロング側なのだ。
ではショート側は何か。
それがマイクロストラテジー株だ。
この「ソフトウェア会社」の時価総額はゆうに1千億ドルを超える。
一方、2022-24年の当期利益はそれぞれマイナス14億ドル、プラス4億ドル、マイナス11億ドルだ。
ちなみに今年の第1四半期はマイナス42億ドルのスタートだった。
驚くべきは赤字基調ではない。
赤字といっても、時価総額に比べれば僅少にすぎない。
驚くべきは、損益の大きさに対する時価総額の大きさの方だ。
この会社はビットコインを大量に保有することを会社の戦略に挙げている。
つまり、時価総額の大きさは保有資産を反映したものなのだ。
しかも、そこに「プレミアム」が載っている。
今年3月末のバランスシートによれば、同社が保有する「デジタル資産」は435億ドル。
総資産が439億ドルだから、資産のほぼすべてはビットコイン等のデジタル資産であることになる。
これに対して総負債が103億ドル、優先株が13億。
普通株だけで見た株主資本は322億ドルだ。
ざっくり言って、これに対し市場は1千億ドルを超える株価を付けているのである。
厳密には、転換社債や優先株のオプション価値が若干入り食っている。
チャノス氏によれば、簿価1に対し時価2.5-3の割合だという。
マイクロストラテジーは、転換社債や優先株で資金を調達してビットコインを買う。
わかりやすく(そして少し不正確に)言うと、1調達すると2.5-3だけ時価総額が増えるという、打ち出の小槌なのである。
この差額をチャノス氏は「プレミアム」と呼び、これが最終的に縮小すると予想している。
したがって、ビットコインを買って「プレミアム」の乗ったマイクロストラテジー株を売る、というポジションになる。
同氏は「プレミアム」部分だけの縮小に賭けているため、ビットコイン価格の上下はほとんどがヘッジされていることになる。
チャノス氏は、マイクロストラテジーのやり方を真似る企業が資金調達を行っていることについても警告している。
証券投資とは難しい営みだ。
正しいはずの判断でも、市場が正しいはずの方向に動かない限り投資は成功しない。
特にチャノス氏が手掛けるショートの場合、相当な胆力が必要だ。
ショートしたはよいが、思い通り本当に「プレミアム」が縮小していくとは限らない。
この点について、チャノス氏は淡々とありのままを語っている。
「プレミアムは変動する。・・・
裁定取引のバロメーターであるだけでなく、一般投資家の投機についてのよいバロメーターだ。」
どうやらチャノス氏は、待っていればいつか「プレミアム」が縮小すると単純に考えているわけではなさそうだ。
「プレミアム」の変動を監視し、比較的高いところでポジションを増やし比較的低いところでポジションを減らすといったことをやっているようだ。