アスワス・ダモダラン ニューヨーク大学教授の米ソブリン格下げについての検証にかかわるこぼれ話。
《自国通貨建ての政府債務はデフォルトしない》というのは、積極財政派やリフレ派からよく聞かれたフレーズだ。
ただ、このフレーズを用いる時には十分に注意しなければならない。
財務省などから出された文書(ソブリン格下げに対する反対意見など)を注意して見直すと、書き方が限定的になっているのだ。
ダモダラン教授による米ソブリン格付の引き下げについてのブログ記事には、自国通貨建てソブリン債のデフォルト・リスクについて次のように書かれている:
ソブリン債のデフォルトについては、特に近年、自国通貨建て債務のデフォルトを選択した国々が加わっている。
『選択した』という言葉を使ったのは、ほとんどの国では債務返済のために貨幣を増発でき、自国通貨建て債務のデフォルトを回避できるが、デフォルトの結果よりもインフレの結果の方を恐れるがゆえに(デフォルト回避を)選択しなかったためだ。
ダモダラン教授は、イングランド銀行とカナダ銀行の両中銀が共同で作成しているソブリン・デフォルト・データベース(手法の解説)を引き、1960年以降にデフォルトを起こした国数について次のような傾向を指摘している。
- 特に外貨建て債務で顕著だが、デフォルトの対象が銀行借り入れから国債にシフトしている。
- 自国通貨建てのデフォルトは外貨建てほどではないが発生し続け、無視できない割合を占めている。
「国々の中にはインフレに対峙するより自国通貨建て国債をデフォルトする国があり、政府がデフォルトしないとの仮定は現実に妥当でない。
そうならば、国債金利はもはや真のリスクフリー金利ではなく、リスクフリー金利を求めるには国債金利からデフォルト・スプレッドを差し引く必要がある。」
この事実と理屈にしたがい、ダモダラン教授は、米10年債利回りをリスクフリー金利とはみなさないことにしたのである。
(次ページ: 世界でデフォルトはどれくらい起こっている?)