ハワード・マークス氏の今回のテーマは、現在290 bpであるハイイールド・スプレッドがリスクに見合ったものであるのか、である。
マークス氏によれば、現在「正常な」ハイイールド・スプレッドは400-600 bpだという。
つまり、米国債利回りより4-6%高い利回りが求められるのが通常ということだ。
ならば290 bpは小さすぎないか、となるが、同氏は必ずしもそうではないという。
「正常な」スプレッドは400-600 bpでも、過去39年間の実績の超過リターン(ハイイールドのリターンから米国債のリターンを引いたもの)は269 bpだったという。
この関係が続くなら、290 bpのスプレッドでもハイイールド債が米国債をアウトパフォームすることになる。
マークス氏は、過去39年間でのハイイールド債のデフォルト率が3.5%、デフォルト時の毀損率が2/3だったと書いている。
年間の毀損率はこの2つを掛け合わせて230 bpであり、「正常な」ハイイールド・スプレッドはこれを十分カバーして余りあると書いている。
さらに、デフォルト率3.5%が将来予想値として高すぎる理由をいくつか挙げている:
- 3.5%は平均であり、危機時を除くともっと低い。
- 政府・中央銀行の救済手段が過去より強力に。
- ハイイールド内での格付分布が改善。
- アクティブ運用なら市場平均より改善を期待できる。
マークス氏のハイイールド債に対する結論は:
これらすべての理由ほかから、過去の小さなスプレッドはかなり誇張されていると信じている。
さらに、スプレッド拡大は株式におけるボラティリティと同様一時的な現象にすぎない。
ある程度の期間待てるなら、ハイイールド債は市場が要求してきたスプレッドほどには高リスクではないと言いたいのだろう。
さらに、マークス氏は、過去のハイイールド指数と米国債指数を用い、パフォーマンス比較をシミュレートしている。
投資時期は2007年6月、つまりサブプライム危機勃発直前であり、この時ハイイールド・スプレッドは史上最低の241 bpとなっている。
この後、サブプライム/リーマン危機が進展したことを考えると、ハイイールド債投資にとって最悪のタイミングのようにも思える。
しかし、結果は3年目までは米国債の勝ち、5年目以降はハイイールド債の勝ちとなっている。
確かに上記の結論を実証しているように見える。
マークス氏はこの後、ハイイールド債と比較したプライベート・クレジットや株式のメリット/デメリットを検討している。
結論は、クレジットが現状のスプレッドでも株式(S&P 500を株式のある程度の代表とみなしている)より有利だろう。
今やクレジットはフリーランチではないが、健全な絶対リターンを提供し、相対的に公正に値付けされている。・・・
これはハイイールド債に限ったことではない。
マークス氏は米国株が割高だと考えているため、こういう結論になるのも当然だ。
(次ページ: マークス氏がクレジットにやや甘い原因)