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キャリード・インタレスト課税の落とし穴
2020年11月25日

ファンドのキャリード・インタレストへの課税を軽減するとの案が、来年度の税制改正大綱に盛り込まれるとの報道があった。
理解はするが、なんとも時代に逆行しているように感じられ心配だ。(浜町SCI)


「政府・与党が、日本の金融資本市場の競争力を高めるため、一定条件を満たした資産運用業者の報酬について所得税を軽減する方向で検討していることが24日、分かった。
ファンドの運用成果を反映した報酬を金融所得と見なし、その分について以前より低い20%を課税する。
海外の資産運用会社や高度金融人材の国内市場参入を促す狙い。」

時事通信が伝えている。
菅政権が最重要課題として掲げる国際金融都市構想の実現のため、税制面で諸外国に負けないようにという趣旨だ。
日本ではキャリード・インタレストが通常の所得として課税されており、高額所得に対しては高率の税金が課される。
これが優秀な人材・組織の誘致で不利に働いてきたという。
金融所得とすれば20%程度の税率となり、香港やシンガポールとの競合でも不利に働かなくなる。

こうした考え方を否定するわけにはいかない。
政府が産業を誘致したり、国際競争力を底上げしようとすると、必ずこういう話になる。
彼らに産業のソフトの部分まで底上げする能力はないし、結局は金を出すことぐらいしかないからだ。
だから、否定はできない。
ただ、こうした考え方に接するにつけ、時代遅れとの印象を持たざるを得ない。

この記事を読んで、2017年11月のジェフリー・ガンドラック氏の発言を思い出した。

「提案されているこの減税案の中身を見てがっかりした。
ヘッジ・ファンドのキャリード・インタレストのスキームが温存されるとわかって、いやな気持になった。
この法案を見て、障害を取り払い流れをよくしようという話に期待するのをやめた。
障害はむしろ増えている。」

ガンドラック氏ががっかりしたのは、キャリード・インタレストの優遇的取り扱いが温存されると知ったからだ。
すでに金持ちで高給取りのヘッジファンド・マネージャーが、成功報酬について低い税率の適用を受けている。
その不公平が取り払われると期待していたのに、そうはならなかった。
しかも、民主党が多数を占めているはずの下院でそうならなかったのだ。
ちなみに、ガンドラック氏は税制が変更されれば損をする立場だった。
それでも変更すべきと願っていたのだ。

当時のFPによる解説を引用しよう。

「キャリード・インタレストとは一部ファンドで発生する運用者の取り分のことだ。
プライベート・エクイティ、ベンチャー・ファンド、ヘッジ・ファンド、ディストレス・ファンド等の一部では、ファンドがリターンを上げそれが一定のパーセンテージ以上になると運用者に(通常の信託・運用報酬などに加えて)利益配分がなされる。
世間相場では、超過したリターンの20%程度が運用者に配分されると言われる。
Bloombergによるとこのキャリード・インタレストに対する税率が(所得税の最高税率が39.6%なのに対し)20%程度に抑えられている(キャピタル・ゲイン課税が適用されている)という。
キャリード・インタレストは運用者がうまくやったことへのボーナスなのだが、報酬としてではなく投資収益として課税されているのだ。」

米国では、大金持ちの税率が低所得層・中所得層と同じかそれより低いことが問題視されてきた。
米国では2017年に、少なくともその解決策が真剣に議論されていたのだ。
つまり、今の日本と逆の方向が検討されていた。

政府・与党がやろうとしている趣旨は理解できるし、一概に否定はできない。
優秀な人材・組織を誘致できれば全体のパイが大きくなるかもしれない。
全体のパイが大きくなれば、それ以外のところにも波及効果があるだろう。
しかし、一方で、アベノミクスにおいて当初言われていたトリクルダウンが思うほど進まなかったことも忘れてはいけない。
税金を優遇することで、いったいどれほどの雇用が生まれ、税収が増えるのか(あるいは減るのか)。
丁寧に検討すべきだろう。

米国におけるウォールストリートとメインストリートの格差(あるいは事実かどうかわからないが少なくとも格差が感じられること)は、米社会の不安定の1つの要因になっている。
そして、ヘッジファンドなどの業界では、たった1人でも巨額の利益を上げうる。
たった1人でも大きな格差を実現し、おそらくそこからの波及効果はかなり小さい。
税軽減がメインストリートの怒りを掻き立てるだけに終わらないよう十分注意すべきだと思う。

世界は税の話になると、どうも正しい方向に進めなくなる。
世界的に政府と民間の間で財産のありかが概して偏っている。
政府が貧乏で民間が金持ちになっている。
もちろん政府の仕事の中身は常に厳しく見直すべきだが、それでも政府は貧乏であり続けるだろう。
政府がとんでもなく貧乏なら、そこで検討されるべきは減税でなく増税であるはずだ。
誤解をしないでほしい。
増税で経済を冷やせというのではない。
増税しても支出を減らしにくくかつ困らない層から多くとって、財政再建と再配分に回せといいたいのだ。

タックス・ヘイブンの話にしても、香港・シンガポールの話にしても、おかしいのは日本ではなく相手なのではないか。
本当ならば、租税回避地や税優遇のある国に増税をすべきと迫るべきなのではないか。
当然ながら、税制は国内問題であり、他国の内政に干渉するわけにはいかない。
しかし、税優遇により国際競争力を得ようとするのは、紛れもなくアンフェアなやり口と言わざるをえない。

世界的な政府財政の悪化は大きな問題だ。
これは、地球温暖化に匹敵するような大問題だと思う。
もうすぐ米国が国際社会に戻ってくる。
借金まみれの国どおし、少ない税金で不当な競争を続ける国々を翻意させるような流れにならぬものか。




山田泰史山田 泰史 横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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