河野龍太郎氏:トゥキディデスの罠は回避できるか

BNPパリバの河野龍太郎氏が、米中の対立の回避シナリオについて論じている。
展開次第では、円相場のレジームが変わりかねない大事のようだ。

「トゥキディデスの罠」: 新興勢力が既存の覇者にとって代わろうとするとき、必ず戦争に結び付くこと。


米中が貿易摩擦をエスカレートさせる中、河野氏はReutersへの寄稿で米中戦争の回避の可能性について論じている。
トゥキディデスの罠というアングルは多くの人が心に思い描いているアングルであり、世界は米国の一強から米中の二強へと多極化しつつある。
これは市場でも極めて重要なテーマであり、つい先日もレイ・ダリオ氏が論じていた。

河野氏は戦争回避の類型を過去の歴史から3つ挙げている。

  1. 英米の対立: 19世紀後半以降、米国が台頭する中で英米の利害が対立した。
    「米国と対峙する上で頼れる国がないことを悟り、英国の指導者は西半球から自ら手を引くことで衝突を回避する。」
  2. 米ソ冷戦: 「当時の指導者の力量も大きいのだが、トランプ大統領に多くを期待できるだろうか。」
  3. ドイツと欧州: 「ドイツは、欧州連合(EU)やユーロ、北大西洋条約機構(NATO)など国家よりも大きな機構に組み込まれることで、その脅威が抑えられている。」

自ら「中華」を名乗る中国が3を受け入れることはない。
米大統領の見識に頼れないのは万人の見方であろう。
河野氏は専ら1を検討しており、それが実現することで必然的に起こる現象を予想する。

「仮に当時の英国が西半球から手を引いたのと同じ選択を今度は米国が行うとすると、それは米国がアジアの安全保障へのコミットメントを修正することに他ならない。」

仮に米国が東アジアにおける関与を緩めるなら、東アジアにおける米国の同盟国は米国との軍事同盟に依存できなくなる。
各国が自前で防衛力を増強するという少々むなしい方向性に向かわざるをえなくなるかもしれない。
これは、投資家にとってはどういうインプリケーションを持つのだろうか。
河野氏は「リスク・オフの円高」について独自の仮説を紹介する。


リスクオフ環境になると金融市場で常に円高が進むのは、日本が米国の軍事力によって守られているからだというのが筆者の仮説である。

日本自体の地政学的リスクの高まりにおいても、当事国である日本の通貨は売られず、買われる傾向がある。
この大前提には、日本が米軍によって守られていることがあると言うのだ。
仮に、米国が東アジアへのコミットを緩めるなら、この前提は崩れることになる。

もし米国が日本の安全保障へのコミットメントを修正する場合、逃避先はもはや日本国内ではなくなり、米国をはじめとする海外ということになるため、リスクオフで円安がもたらされる可能性が高い。

この円安リスクは単なる方向性の変化のみにとどまらない。
経済・市場の安定的な均衡点を奪いかねない。
リスク・オフで円安が起こるようになれば、円資産保有のリスクはさらに増大する。
さらにリスク・オフが進み円安が進むことになる。
利上げで円安を防ぎたくとも、利上げすれば政府財政がもたなくなる。

日銀は円安回避のための利上げを行えず、円安とインフレ加速のスパイラルが生じ、経済が混乱に陥るリスクが高まる。
巨額の公的債務を抱える日本にとり、リスクオフが円高をもたらしている現在は、実は幸いなことなのかもしれない。
リスクオフが円高を意味する間に、財政健全化に着手する必要がある。

残念ながら、自公政権の財政健全化に対する本気度はまだ見えない。
むしろ、政府・日銀の2%物価目標への固執ぶりを見ると、本音ではインフレで債務問題を解決しようとしているのではないかと疑うばかりだ。
仮にそうした手段を選択する場合、インフレを高め(2-5%?)に保ちつつ、実質金利を大きくマイナスにして名目金利を抑え込む金融抑圧を継続することになる。
しかし、これも安定的均衡点がいつまでも存在する保証はない。
いつか日本人がマイナスの実質金利の継続に嫌気すれば、円売りスパイラルが回り始める可能性も否定しきれない。
円安やインフレというのは、河野氏が指摘する通り、なかなか進まないうちが華なのだ。


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