ボスティック総裁:物価水準目標のイメージ

アトランタ地区連銀Raphael Bostic総裁によるブログのパート3。
パート1 パート2


今回ボスティック総裁は具体的な物価水準目標による金融政策運営のイメージを提案している。
その前に、一般的な物価水準目標についておさらいしよう。

これまでの2%物価目標では、インフレが2%より下回れば金融緩和を行いインフレを誘導するというものだった。
過去数年のように実績が2%を下回っても、自動的に追加緩和を行うという話ではなかった。
しかし、これではいつまでたっても目標は達成できないかもしれない。
目標が未達となった場合、その分を上乗せして緩和強化をする仕組みを考えたい。
そこで、考えられたのが物価水準目標だ。
これまでのようにその時々の2%の物価上昇率を目標とするのではなく、物価指数そのものを目標にしようというのである。

一般的な物価水準目標のイメージ図
一般的な物価水準目標のイメージ図

青線が物価上昇率2%の物価水準を示しており、これを目標にする。
4年目までは2%上昇に満たなかったため出遅れている。
その分、5年目以降取り戻そうとしている。
当然、5年目以降の物価上昇率は2%より高くなっている。
過去の未達分を取り戻すためだ。
その分、金融緩和を強化しなければならなくなる。

こうした自動的な緩和強化の仕組みをハト派は望んでいるのだ。
彼らからすれば、極めて都合のいい仕組みと言える。
現状は2%に満たない(=物価水準目標を下回っている)のだから、自動的に緩和強化が決定されることになる。
(これが従来の2%物価目標の場合、例えばインフレ1.5%が2年続いた場合でも、自動的な緩和強化とはならないだろう。)

ボスティック総裁の提案は、これに少々柔軟化の仕組みを付加している。
上下に許容範囲を設けているのだ。
総裁は仮の設定として、上下5%の幅を持たせている。


物価水準目標のイメージ図
物価水準目標のイメージ図

「経済に二重の損害を及ぼすリスクを冒したり、中央銀行のインフレや経済活動に対する短期的影響力を過度に発揮させたりすることのないよう、徐々に調整することが重要だ。」

例えばある年インフレが1%でしかなかった場合、翌年だけでそれを取り戻そうとすれば3%のインフレが必要となる。
これを実現するためには無茶な金融緩和が必要とされてしまうだろうし、そうしたところで物価水準目標が持続的に実現する可能性は薄いだろう。
仮に翌2年で取り戻す場合でも2年で平均2.5%のインフレが必要であり、これも相当な負担だ。
過去の積み残しを後で取り戻すのは相当にきつい話なのだ。
そんなこともあって、仮とは言いながら、ボスティック総裁は5%もの許容範囲を例示したのだろう。

さらに注目すべきは、ボスティック総裁が上下に許容範囲を設けているということ。
未達の場合は追い着くが、行き過ぎた場合も強くブレーキを踏むべきと示唆している。
ここは、金融緩和強化のみを目指すハト派とは異なる部分であろう。
ハト派が意図する物価水準目標とは専ら2%未達の場合に後で取り戻すシナリオを想定している。

なぜ、ボスティック総裁は上限もまた設定すべきと言うのだろう。
それはパート2で論じた「限定的な名目の不確実性」の実現を重視しているのだ。
物価水準が上限と下限の間に収まることで、企業・家計は自らの貯蓄の実質的価値が将来どう推移するか容易に予想することができる。
総裁は、不確実性を限定することで、金融政策が経済の効率に寄与するはずと書いている。

今持っている貯蓄が将来どの程度の価値を保つのか。
それを知ることで、企業・家計は今支出できる金額を逆算できる。
逆に、それがわからないと、不確実性に備えるために、企業・家計は多めに貯蓄を確保しようとして、支出を絞ってしまうのだ。


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